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西岸からの声: アートに表現される苦難

  • コラム

昨年の10月7日以降、ガザでの未曽有の人道危機の陰で、ヨルダン川西岸地区でもこれまでにない勢いで暴力、人権侵害が起きています。6月5日までに、イスラエル占領軍もしくは違法入植者に殺害されたパレスチナ人は528人に上り、そのうち132人は子どもです。また、イスラエル政府は入植地のさらなる拡大を進めています。私たちが植樹事業を行っているセルフィート県のヤスーフ村でも、違法入植者によるオリーブ畑の破壊が続いています。
(参照記事:https://www.parcic.org/activity/staff/report/palestine_olive_202404.html)

そのような状況下、パルシックのヨルダン川西岸事務所がある都市ラマッラでは、ガザの人びとや西岸で暴力に晒されている人たちへの連帯を示すデモンストレーションや映画上映会、アート展などが開催されています。先日、西岸事務所スタッフのヤラがガザ出身のアーティストたちの展覧会を訪れ、ラマッラに住む若者として今感じていることを伝えてくれました。

ヤラからの報告

パレスチナ美術館で開催されている「This is Not an Exhibition(これは展覧会ではない)」(この展示は期間が決まっておらず、停戦まで続けられるそうです)は、苦しみ、恐怖、その他のあらゆる感情、そして夢が一つの空間に詰められた非常にユニークな展示でした。会場は、白い壁にアートが並びクラシック音楽が流れるような普段の展覧会とは全く異なる雰囲気でした。ガザの人びとが直面している厳しい日々を表現するために、壁は暗い色に塗られ、ガザ上空に絶え間なく響いているドローンの「ブーン」という音が流れていました。壁にはナクバ(1948年)の頃から、第二次インティファーダ後(2000年代)に生まれた3世代に渡るアーティストたちの作品が天井に届くまで並べられていました。

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展示場の中心には瓦礫の山が置かれていました

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左から閉ざされた海を越えること、閉ざされた陸を越えること、エルサレムにあるアル・アクサモスクに行くことが、架空の生き物がいないと叶わない夢であることを表しています。(モハメド・アル・ハワージリ)

西岸に住んでいるパレスチナ人も、検問所や突然の道路閉鎖による移動の制限、増え続ける違法入植地などの苦難はありますが、今回の戦争以前から続くガザの人びとの苦しみは別次元のものです。特に2007年のガザ地区の軍事封鎖以降は食べ物を含めた生活必需品が慢性的に不足し、国境を越えることは「夢」のような話でした。モハメド・アル・ハワージリの作品は、ガザの人びとが閉ざされた扉を破り、自由になるためには羽のついた羊が必要だと訴えています。世界中の多くの人びとにとっては、チケットさえ購入できれば乗り物に乗って行きたい場所に行くことができると思いますが、ガザから出る唯一の移動手段がアートなのです。

私が強烈な印象を受けたのはモハメド・アブサールのサボテンの絵でした。祖父母たちの時代、パレスチナでは家の周りにサボテンを塀として植えていました。1948年以降、パレスチナ人が追い出され、家や畑が破壊された後もサボテンはそこで生き続けています。サボテンが残っている場所は、かつてパレスチナ人が住んでいた場所です。

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今ではサボテンは、過酷な環境でも生き抜く私たちパレスチナ人の強さと抵抗のシンボルとなっています。(モハメド・アブサール)

会場の入口にはガザのアーティストたちの名前が並んでいました。彼らの想像力と夢は時間も空間も飛び越えて、私を含めた人びとの心を動かします。しかし、彼らの多くはガザにいて、ジェノサイドが彼らの命も夢も奪い去っています。

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会場の入口に並んだアーティストたちの名前。真ん中のスクリーンには、今回の戦争で殺されたことが確認できているアーティストの詳細が流れていました

私たちは毎日ニュースやSNSでガザの状況を追っています。先日、空爆でバラバラにされた弟の体を必死に集めて、バッグにしまって持って帰ろうとしている子どもの映像を見ました。また、損傷が激しい亡骸から、残された歯の形で家族がどうかを見分けようとしている人も見ました。別の映像では、小さな女の子が空爆で殺され遺体袋に入れられた母親の体を抱きしめていました。

私はこの映像を見た時、一緒に住んでいる母を抱きしめて、彼女の髪にキスをし、神様に彼女を守ってもらうように願わずにはいられませんでした。ガザで長引く戦争、そして西岸での入植者やイスラエル軍による暴力の激化によって、このようなことがヨルダン川西岸でいつ起きてもおかしくないと感じています。実際に、6月初めにラマッラの中心部にある野菜市場が、イスラエル軍によって放火され、破壊されました。

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ラマッラの人びとの台所ともいえる野菜市場の主なエリアが焼失しました。しかし、焼け残ったエリアでは、火災のあった日から野菜を売っている店もあり、パレスチナ人の強さを感じます

ガザのジャーナリストやSNSのインフルエンサーたちは、自分だけではなく家族の命をも危険に晒しながらも、人びとに真実を届けようとしています。世界の目を覚まさせることができたという意味では、私は彼らの勇気と、称賛してもしきれない努力はイスラエルに勝っていると思います。21世紀も4分の1を終えようとしている今、命も自由も尊厳も奪われ続ける人たちがいるなんて本当に信じられないことです。

この状況が9か月も続き、みなさんは目を覆いたくなる悲惨な動画を見たり、再投稿したりすることに疲れてきているでしょう。ガザの人びとはその状況を生きて、共有することに本当に疲れ果てています。ガザの人びとに心を寄せ、一日も早い停戦を一緒に祈って下さるようお願いします。

(西岸事務所 ヤラ)

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