タグリードからの手紙(ガザ危機から363日目)
- コラム
ガザ地区が未曾有の人道危機に陥った2023年10月7日から、1年以上が経過しました。現在でも激しい攻撃が続くガザ地区中部ヌセイラットに住むガザスタッフのタグリードから、「日本の皆さんに私たちの状況をお伝えしたいです」と再び直筆の手紙が届きました。(前回の手紙)
タグリードからの手紙(ガザ危機から363日目)
私は、日本の皆さんへのメッセージを書き留めようとノートを開きましたが、すぐさま閉じて部屋を出ました。私の住む住宅街の西側で、ドローンによる銃撃が始まったのです。私は、銃弾に当たらないように二人の娘を呼び寄せました。21歳の長女はソファから飛び降りて床に伏せ、19歳の次女は私の隣に身を寄せました。銃撃音はとても怖いです。このような、気が狂いそうな状況がほぼ毎日続いています。360日が経った今でも、いわゆる文明社会は惨事を止めることができていません。もはや人びとからヒューマニティが失われてしまったのでしょうか、あるいは、世界の人びとは、もうガザの状況を気にも留めなくなってしまったのでしょうか!
ガザで(国内避難民となっている)190万人のパレスチナ人に日々起きていることは、明らかな戦争犯罪であり、あらゆる面における人道的危機です。食糧、医薬品、医療器具、燃油、テント、洋服、靴ですらガザへの物資の搬入が認められておらず、ガザの全ての人びとが飢餓、感染症や病気、耐え難い苦痛に襲われています。この一年、イスラエルによるジェノサイドが続き、イスラエルは今なおその攻撃を続けており、その被害はレバノンにまで広がっています。住居、避難所、テント、病院、土地、学校の破壊が続いたこの一年。190万人のパレスチナ人から、平穏な暮らしを奪ったこの一年。190万人のパレスチナ人に深刻な影響を与えました。人びとはテントが密集した小さな地域へ退避を何度もさせられ、過密状態に追いこまれています。衛生環境、清潔な水、避難所、食糧、赤ちゃんのためのミルクや薬など、生活するうえで必要なものが圧倒的に不足しています。
今日までで、41,788人の死者、そして96,794人以上の負傷者が出ています。今日はジェノサイドが始まって363日目で、戦争はいまだに続いています…夜はとても怖く、ここにいる人びとの目は疲れきっています。心は壊れて、血を見ることが日常となってしまいました…墓場は何千もの語られていない物語でいっぱいです。ガザ地区全土がイスラエルによるジェノサイドの中で前代未聞の破壊に直面しています。国際通信社AFP通信によると16万9千の建物が破損または破壊されています。学校の85%は壊され瓦礫の中にあり、農地も道路も68%が破壊されています。363日続いた食糧難で、人々の健康状態は非常に悪くなっています。特にここ三か月はイスラエル軍が支援物資をガザの外から搬入することも阻んでいます。
私は現在46歳で、あと2ヶ月で47歳になります。この1年間、私の健康状態は悪く、顔色は青ざめ、体重も減り、髪も抜けています。栄養状態が悪く、ビタミン不足の影響で爪もすぐに割れてしまいます。私の19歳の次女ハナはもともと貧血気味で、さらに食糧難で十分な栄養が得られず頭痛に悩まされています。彼女は貧血予防に赤身のお肉や魚を食べなくてはならないのですが、戦争中は食べられていません。体調不良に悩まされながらも、ハナは変わらず優秀で自慢の娘です。電気なく通信状況も悪いため、大学のオンライン授業も受けられませんが、彼女は時間を有意義に使っています。彼女は従兄弟のためにすてきなブレスレットを作っています。そのブレスレットを売って利益を貧しい人に寄付したり、新しいブレスレットを作るための材料費に充てたりすると言っています。さらに、ロシア語の勉強も始めました!数字、色、挨拶などが分かるようになりました。
野菜や果物、衛生用品の値段はとても高いです。今週は、トマト1キロが約1,600円、卵30個が1,800円、シャンプーは1本3,200円、食器洗剤は1本2,600円…すべてが高く、ガザのほとんどの人は仕事を失っているので、NGOからの援助の食糧を頼りに生き延びています。
私たちの畜産支援事業に参加をしていた女性たちは、度重なる退避のせいで現在も劣悪な環境にありますが、家族を支えて生き延びようと頑張っています。私たちは過酷な状況下でも連絡を取り続けており、彼女たちは羊を生かして生計の向上につなげようと奮闘しています。この戦争を生き延びて、以前のように朝起きてお母さん羊や赤ちゃん羊の世話をし、乳を搾り、おいしいチーズを作るという普通の暮らしに戻りたいと切望しています。
私は趣味でガーデニングをしていましたが、戦争によってこの趣味は奪われました。戦争がはじまって以来、ルッコラ、コリアンダーやディルなどのハーブを2回ほど植えてみましたが、全て水分不足や避難している間に枯れてしまいました。先週、ルッコラを植えてみました。今はまだ枯れていません。水不足が少し改善されたからかもしれません。今週はディルとコリアンダーを植えました。いつものように、もっと多く植えたいのですが、種が売っていません。いつもは、唐辛子やレタス、コリアンダー、パセリ、ルッコラ、ミント、セージやタイムを植えていました。
数日前、15分ほど雨が降り、壊れた窓から雨水が家の中に入ってしまいました。カーテンで窓を覆って雨水を防ごうとできる限りのことをしましたが、水は室内に入り込んできました。この時、テント生活をしている人のことを思い、非常に胸が痛かったです。テントでの生活は、人びとの生活をより厳しいものにしてしまいます。冬の雨や寒さ、夏の暑さや湿度に耐え、また狭い場所にたくさんの人が身を寄せざるをえない状況が続き…彼らには布やナイロンシートで作ったテントではなく、雨風をしのぎ、移動も可能なトレーラーハウスが必要です。
皆さまのご寄付、そして「寄付が必要である状況」を多くの人に広めてくださっていることは、1年間何度も退避を繰り返してその都度テントやシェルターで避難生活を余儀なくされてきた人びとの助けになっていると強く信じています。冬の到来がもうすぐなのに、夏に立てたテントや夏服は破れ、雨や寒さから彼らの身を守るものがありません。
私は声を大にして、即時かつ永続的な停戦の実現、すべての人への迅速な人道援助、退避を続ける人びとの安全な帰還を求めます。子ども、女性、高齢者を無差別に殺すことをどうか止めてください。ジェノサイドを止めるため、イスラエルへの武器供与を即座に停止するよう働きかけてください。イスラエル軍はこれまでに、ガザの住民登録から902もの一族を(一人残らず殺害して)消し去りました。
(この文章は意訳や本人の個人的な見解を含んでいます)
(ガザ事務所 タグリード)
原文はこちら(英語)