特定非営利活動法人 パルシック(PARCIC)

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パレスチナ・ラマダンリポート(ラマッラー事務所 ヤラ)

  • コラム

ラマッラー事務所のヤラはパルシックのパレスチナ事務所で最も若いながら、ガザとラマッラーの業務を事細かく補佐してくれています。今回は、特にラマッラーの一般家庭でのラマダンの様子を紹介します。

ラマッラー事務所スタッフ・ヤラが見たラマダン

ラマダンの迎え方は街によって多種多様です。

今年ラマッラーでは、大きな提灯(ファヌースの一種)を町の中心部にあるアラファト広場に飾って、ラマダン開始と共に点灯式を行いました。式には多くの人びとが参加し、スピーチをしたり、お菓子が配られたりしました。それでは、ラマッラーの一般家庭ではどんな風にラマダンを過ごすのでしょうか?私の家を例にとって紹介したいと思います。

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ラマッラーのアラファト広場に設置された巨大なファヌース

準備はラマダン入りする数日前から始まります。私の母はラマダン用に長い買い物リストを作成し、ラマダンが始まる前に必要な食品などを買い揃えます。もちろん、自分たちの分だけでなく多目に購入し、砂糖やお米、鶏肉、お菓子の一部をカゴに入れて親戚や貧しい世帯にも配ります。また、家の飾り付けも大事な準備。我が家では毎年決まった三日月型や星型の電飾を窓に吊り下げており、夜にはネオンがきらきら輝いています。

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ライトアップされたラマッラーの中心街

6月18日のラマダン初日、私たちは早朝3時に起き出しました。早すぎる、と思うかもしれませんが、ラマダンの間は家族に起こしてもらうことも目覚ましのアラームも必要ありません。それぞれの地域には「モシュラーティ」という人びとを起こして回る役割の人がいて、大きな太鼓を打ち鳴らしながら「起きなさい!起きなさい!ソホール(日の出前の食事)の時間ですよ!」と巡回してくるからです。

私自身は朝に食事をすると日中にかえってお腹がすくため、朝食は水だけで済ませますが、私を除く家族は全員でソホールを取ります。母はオリーブオイル、ザアタル(タイム)、ラバナ(クリームチーズ)、ホワイトチーズ(塩の効いたチーズ)、イエローチーズと紅茶を用意してくれ、日の出の1時間前から食べ始めます。朝4時の夜明けと同時に食事を止め、お祈りを捧げた後少し睡眠をとります。

ラマダンの間、市役所や一部の企業は10時始業で2時半終業という時短勤務になります。私はいつも通り出勤し、4時に仕事を終えて帰宅。午後8時の日没までの4時間を、仮眠に使ったり、コーランを読んだり、夕食のデザートに何を作ろうか考えたりして過ごしています。

母は、毎日昼12時ぐらいに電話をくれます。「冷蔵庫にはこれがあって、今夜のイフタールにはこれとこれとこれ、3つの候補を考えているが、どの料理を食べたい?もし他の料理が食べたければ教えてね、必要な材料を買いに行くから」。私の母の場合、健康によい食事を心がけて家族が太らないよう気を配ってくれていますが、もしダイエットに挑戦したいならラマダンはうってつけ。普段たくさん食べる人も、断食中は何も口にすることができないので、5キロ以上の減量も簡単です。もちろん、昼の反動でイフタールに食べ過ぎてしまう場合は、逆もしかりなので要注意。

ラマッラーに住む兄弟は私と兄一人だけなので、我が家でイフタールの献立を決めるのは簡単ですが、パレスチナでは10人兄弟の家庭もあります。大家族の献立決めがいかに難しいかは推して知るべし。他方、献立決めに関するパレスチナの諺には「イフタールは緑の食品もしくは白い食品から食べ始めなさい」というものもあります。緑の食品は断食を助け、白い食品は愛と平和をもたらすと言われているからです。そうはいっても、諺に従うかどうかはそれぞれの家庭次第。私の家では、ヨーグルトなどの白い食品と肉や米を組み合わせた食事は取らず、自分たちの好きなものを選んで食べています。例えば、私たちの好物の一つは、グリーンサラダとポテトチップス、ワニ肉料理の組み合わせ。作り方は簡単で、ワニ肉に塩、コショウ、レモン、にんにく、白酢、スパイスとザアタルを混ぜて炒めるだけです。グリーンサラダにはレタスとネギ、ラディッシュときゅうり、ミントを加え、オリーブオイルと白酢、レモン、ニンニク、塩で味付けしています。

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街中に出現するイフタール用の特設ショップ

イフタール間近の夕方になると、街のあちこちで人びとが色々なものを買い込んで帰宅を急ぐ様子が見られますが、私の父も焼きたてのパンとジュース、ホモス(ヒヨコマメのペースト)とお菓子を買い込んできます。父が帰宅すると、出来上がった料理やホモス、オリーブ、漬物、パン、デーツなどを並べたテーブルに家族で集まり、断食の終わりを告げるアザーン(礼拝の呼びかけ)を待ちます。このアザーンの数分前になると、誰も彼もが家に帰ってしまい、通りにはひとっこ一人いなくなりますが、私にとってこの光景はどことなく昔イスラエルから包囲攻撃を受けていた時の状況を連想させます。当時はイスラエルが「外出禁止令」を出していたため誰も外に出ることが出来ず、いつ命令が解かれるのかも全く分からなかったものですが、ラマダンでは夜八時ごろようやく長い断食の終わりを告げるアザーンが街に響き始めます。アザーンは食事開始の合図。でも、食事の前に「アラーの神よ、どうか健康と富をもたらし、私の夢をお叶え下さい」と祈るのを忘れずに。

食事が終わるとお祈りを捧げ、その後はリビングルームでアラブコーヒーを飲みながら、リラックスして過ごします。両親はアラブ世界で一番人気のテレビ番組「Ba’ab El Hara」(隣の家の玄関)がお気に入り。番組が終わると、父はラマダンの時だけに行われる「タラウィーハ」(夜の祈り)を行うためモスクへ出かけていきます。父が帰ってくると、ようやくお待ちかねのスイーツの時間です。

ラマダンの間は路上や市場で特設のショップが設けられ、この時期だけに作る特別なお菓子、「カターイエフ」や「ムドゥローカ」、「ハレセ」や「アワーメ」等が出回り始めます。どれも家庭で作れるお菓子ですが、時間がない時や家にたくさんの人を招待しているときは買って済ませることもあります。我が家の本日のスイーツは「カターィエフ」 [1]。50種類ものレシピがあるといわれ、大きなものから小さなものまで、開いているタイプや閉じているタイプ、焼いているものや揚げたもの、中身の具も多岐にわたります。我が家では定番のホワイトチーズ入りとナッツ入りの2種類を用意しました。

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カターィエフを焼くスイーツショップのおじさん

作り方は簡単。まず、街のあちこちで山積みにして売り出しているパンケーキのような見た目のカターイェフの「皮」を買ってきます。2種類の中身をそれぞれ皮に詰めていき、餃子のように半分に畳んで口を閉じます。これを「電気フライパン」に入れて温め、中身のチーズや皮が程よくなったら出来上がりです。お店で売っているものには、この上にピスタチオパウダーがかかっていることもありますが、母のレシピは、さらに温めたシロップをかけています。ふかふかの皮とチーズやナッツの組み合わせが絶妙の甘いお菓子でアラブコーヒーにぴったりです。

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シロップのかかったカターィエフ

食べ過ぎにだけは注意して、素敵なラマダンを!

[1] ラマッラーシティの方言では「アターィエフ」

(ラマッラー事務所 ヤラ)

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