レバノンの山田君 インターン日誌~ Vol.4 シリア難民とレバノン人の対立
- コラム
「お前の助けたいシリア人ならここにいるぞ。こいつに金をやれ、金をやってシリアに帰ってもらえ。」
国内人口の約5分の1がシリア難民と、人口に占める難民の割合が世界一高いレバノンでは、レバノン人の生活に難民が大きな影響を及ぼしています。上述の言葉は、つい最近あるレバノン人が僕に言ったものです。山岳地帯にある彼の住む小さな村には、シリア内戦以後1,000人もの難民が暮らしているそうです。僕がレバノンでシリア難民の支援に関わっていることを知った彼は、すぐ近くにいたシリア人の男性を馬鹿にするように指さしながら、こう言ったのでした。
ベカー高原を歩くシリア難民の2人。ダマスカス出身だと話してくれた。
ベイルートで生活をしていると、日ごろからたくさんのシリア難民を見かけます。大通りに架けられた歩道橋にはたくさんの難民が座り込んで物乞いをし、水やティッシュを売ろうとする小さな女の子が、交差点で止まった車の間を行きかいます。スターバックスのテラス席に座ると、少年たちがお金をもらおうと何度もしつこくねだってきます。日本のスターバックスでは、難民が他の客に物乞いをしている場面など見たことがありません。しかしレバノンでは、それはよくある当たり前の光景になってしまっています。日々の生活の中でこうした場面に何度も遭遇していれば、そしてそれが8年以上続いていれば、シリア人に対しての不満が出てしまうこともあるかもしれません。
レバノンではシリア難民が増えた結果「自分たちの仕事がシリア難民に奪われた」と考えるレバノン人が一定数います。難民の中にはレバノン人より少ない賃金で働く人も多いので、同じ仕事でも低コストで済むシリア人が優遇され仕事を得る一方、自分たちレバノン人は働き口を失ってしまっているという主張です。シリア難民をはじめ就労ビザを持たない外国人が就ける仕事は限られており、特に高度な能力を必要としない職業において、こうした状況は顕著だそうです。
さらに、現在レバノンは「経済非常事態宣言」を出しており、経済状況の悪化が深刻な問題であるといわれています。これに関して一部の政治家が、経済の低迷の原因はシリア難民にあると断言するような発言をしたことなどもあり、レバノン国内においてホストコミュニティ(受け入れ側の社会)であるレバノン人と、シリア人の関係が徐々に悪化している気がします。
もちろん、レバノン人の中にはシリア難民の支援に携わる人たちもいますし、レバノン社会に溶け込んでいるシリア人もいます。そもそもシリア内戦以前は、旅行やビジネスなど人の行き来も盛んでした。シリア人とレバノン人の友人同士ということも、おかしなことではありません。
パルシックは、シリア難民とホストコミュニティのレバノン人の融和を促進するための取り組みを行っています。先日は提携団体が開催した、複数の国籍の混合チームによるサッカー大会に協力をしました。国籍を超え1つのチームとして戦う人々の姿を見て、だれでも一緒になって盛り上がることのできるサッカー大会は「難民支援」の1つの有用な形であることを感じました。こうしたシリア人を含む多国籍間の交流は、難民とホストコミュニティの間で高まりつつある緊張を和らげる、クッションの役割を果たすことができるのではないでしょうか。今後はサッカーだけでなく、他のスポーツや文化など様々なジャンルで、人びとの交流を図っていきたいと考えています。
提携団体URDA主催のサッカー大会の決勝戦後、健闘を称えあって両チーム一緒に記念撮影。