COVID-19:ロックダウン下のレバノンにおけるシリア難民の苦境【前編】
- コラム
こんにちは。レバノンの首都ベイルートに駐在中の風間です。
最近(4月第2週時点)のレバノンは、冷たい雨や雪が降る冬は終わり、暖かく天気の良い日が増えてきました。色とりどりのたくさんの花が咲いており・・・(名前を知らないので写真だけ載せておきますね)。ビワも春の代表的な果物のようで、ベイルートの街中にもたまに見かけます。
空き地に咲く色とりどりの花(名前は不明)
4月末には食べられそう
実はレバノン、緯度が北緯33度から34度と、日本の高知県から広島県のあたりと重なっています。地中海に面し、山あり高原ありで農業が盛んなレバノンでは、チェリーの栽培も行っているということで「レバノンの桜でお花見をしよう!」と呑気に考えておりました。ところが、世界中で人びとの生活に大きな影響を与えている新型コロナウイルスがレバノンにも拡大し、あれよあれよという間にレバノンで生活する人びとの生活が大きく制限される事態になっています。今回は、そんなレバノンの状況とパルシックの活動をお知らせしたいと思います。
レバノンの新型コロナウイルス感染状況
先にレバノンの最新の新型コロナウイルス感染状況をお伝えすると、全感染者数は4月13日時点で630人、死者は20人と報告されています。ただし、レバノンに暮らす人びとは3月15日に始まったロックダウン[1]を遵守しており、最近では感染者数が徐々に減ってきています。経済危機で医薬品の輸入ですら綱渡り[2]で医療機関のキャパシティーが小さいレバノンにとっては、特に感染のスピードを緩やかにすることが重要で、完全に収束するにはまだまだ時間がかかるものの、これに関してはある程度成功しているようです。
レバノンでのCOVID19感染者数の推移グラフ(2020年4月7日時点)
(出典:Misitry of Public Health Lebanon, WHO, “COVID-19 Surveillance in Lebanon 07 APRIL 2020 UPDATE”, 2020年4月7日)
レバノンにおける新型コロナウイルスへの反応
レバノンで新型コロナウイルスの影響を感じ始めたのは1月末頃でした。私は2019年9月からレバノンに赴任し、それ以来中国や日本など、当時新型コロナウイルスが発生した場所には行っていないため、ウイルスを保有しているとは考えにくい状態でしたが、街を歩くと「コロナ!コロナ!」と叫ばれ、すれ違いざまに口を服で覆って歩く人に出会うといったことがありました。レストランや商店では入店拒否されるのではないかとも考え ―― 実際にはありませんでしたが ――、外出しにくく、ストレスを感じていました。こうした状況は、初めてレバノンで患者が確認された2月21日から数日でピークに達し、差別に反対する中国人留学生がSNSで窮状を訴えたことも話題になりました[3]。
レバノンにおける新型コロナウイルスへの対応
レバノン国内で感染が確認されたことで、レバノン社会のウイルスへの意識・対応が変わっていきました。レバノンでは、これまで一般の人がマスクをつける習慣はありませんでしたが、マスクや消毒ジェルといった衛生用品を皆が買いに走り、路上で人びとがマスクをつけ始めました[4]。2月29日には、幼稚園・小中高・大学が閉鎖され[5]、3月6日には スポーツイベントやナイトクラブに加え、ジム、映画館、劇場が閉鎖されました。そして遂に3月15日午後から店が閉まり始め、翌16日からレバノン全土でロックダウンが始まりました[6]。更に3月18日からは空路と陸路の国境を閉鎖しています。レバノンにおけるロックダウンは、パン屋やスーパーなどを除き、生活する上で必須ではない店や施設は閉鎖され、一般の人びとの外出は、食品を買いに行くなどのどうしても必要な場合にしか認められていません[7]。例外的に、レストランの一部はデリバリー営業を行っている他、外交官や国連・NGO関係者らの活動は認められています。
パルシック、私の対応
パルシックのレバノン駐在員は3月16日から在宅勤務に切り替え、現地提携団体とはメールや、電話、web会議でやり取りし、事業を継続しています。事業地である非公式シリア難民キャンプ[8]は、栄養状態や衛生環境も良いとは言えず、狭い場所にテントが密集しているため、一旦ウイルスが広まれば一気に拡大し大惨事になることから、パルシック駐在スタッフはそのような自体を懸念して事業地訪問を控えています。
密集するテント
衛生状況が想像できる写真
私がロックダウンの中、行っているストレス対処法は、食品の買い出しのついでに散歩・軽いランニングをする、おいしいごはんやデザートを作って食べる、部屋でストレッチや筋トレをする、ラジオを聞く、音楽を聴く、映画やドラマを見る、SNSを通して友人らとコミュニケーションをとる、かわいいアラク(この地域の蒸留酒)の瓶に道端でつんできた植物をさす、ベランダで仕事をする、野良猫に鰹節をあげる、です。しかし、それでもいつの間にかストレスが溜まっているようで、集中力が続かない、イライラするといった日もあるのが実際のところです。
人通りのない道
猫に鰹節をあげる
さて、このロックダウンはウイルスの新規感染者を減らす点では機能しているものの、経済的な打撃は大きく、特に脆弱層の人びとの生活に悪影響が出ています。
【後編】では、新型コロナウイルスによる経済への影響や、シリア難民の生活、事業への影響についてお話ししたいと思います。
[1] 4月10日現在、ロックダウン(都市封鎖)は、4月26日まで延長することが決まっている。
[2] https://thearabweekly.com/lebanon-hospitals-facing-coronavirus-amid-medical-shortages 経済危機による外貨不足で医薬品が不足。 [3] https://www.the961.com/chinese-student-in-lebanon-is-being-harassed-because-of-coronavirus/ 中国人留学生差別
[4] 日本ではマスクを外すとき口の下(あごや首)にずらすことが多いですが、レバノンではおでこにずらしているおじさんをたまに見かけます。また、サイズが合っていない、隙間が空いている、鼻が出ている、といったように基本的な使い方を理解していない人も多く見受けられます。
[5] 子どもの送り迎えの自家用車が減り、近所の渋滞が緩和されたことは良かった。
[6] http://www.naharnet.com/stories/en/270155 ロックダウン開始
[7] https://www.aljazeera.com/news/2020/03/lebanon-shut-airport-restrict-movement-coronavirus-200316101635705.html 国境閉鎖、ロックダウン下の移動制限
[8] 公式に難民を認めていないレバノンでは自発的に作られていった主にテント居住者の難民キャンプを非公式難民キャンプと呼んでいます。
(レバノン事務所 風間)