東ティモール 美味しいコーヒーに出会う旅2022 参加者たちの感想文(3/3)
- コラム
東ティモールコーヒーツアーを終えて
神戸市外国語大学 兼田幹さん
はじめに、私がここ数年間ずっと考え続けていた、農園の訪問、そして、農家の方たちとの交流についてです。私がコーヒーを飲む上で一番大事にしていることは、日本でただ味を判断して楽しむのではなく、サプライチェーンのいちばん川上に位置している農家の人への感謝をすることです。そのため、今まで農園について自分で勉強してきたとはいえ、今回、実際にコーヒーが、どのような場所で、どのように、どんな人によって生産されているのかを知ることができた貴重な機会となりました。そして現地では、テトゥン語が話せない私にとって、「言語」が一番の障壁でしたが、通訳をしていただいたことによって解消され、言語に関するストレスを感じることなく、気持ちよく過ごすことができました。通訳だけでなく、しっかりと質問の時間を設定してくださり、私たちの疑問がなくなるまで答えていただけました。また、他の国での実践との違いなども議論することができ、本当にさまざまな情報を吸収することができたため、私にとって一番満足度が高かった部分だと思います。(卒論で今回の情報をそのまま使えないことが残念ですが……。)集落へ訪問した際も言語はまったく通じなかったため、日本の遊びなどを通した非言語コミュニケーションで仲良くなることができ、一晩と少ししか過ごしていないのに、お別れの際には泣きそうになるほど絆は深まっていて、特別な体験をしたなと思います。今回の訪問を通じて、日本で東ティモールのコーヒーを飲める場所を探すとともに、日本で流通しているコーヒー商品に表示される、生産地の自治体や集落、地域などの情報により注意を向けて、感謝の気持ちをもってコーヒーを楽しみたいと思いました。
続いて、今回のツアー全体についてです。日本で暮らしてきた中で発展途上国へ行くことは本当に貴重な体験で、目新しいことばかりでした。慣習や設備において、日本では当たり前におこなわれていることが原始的な方法でおこなわれていることや、そもそも概念すらなかったことを実際に目にすることができ、机の上で勉強するよりも実感が湧きました。私たちに合わせたプランを組み立てていただき、限られた時間のなかで本当に東ティモールという国を効率良く知ることができたと思います。そして、一緒に行動をともにしてくださった参加者の皆様のおかげで、この旅が盛り上がり、おもしろいものになったのだと思います。(私のしょうもないボケにも付き合っていただいてありがとうございます……。)
帰国してからずっと、今回の旅ではお値段相当以上の経験だったと感じるほど、充実した1週間を過ごすことができました。皆さん本当にありがとうございました。それでは「#今日のミギー」で終わりましょう。
「コーヒー」と「幸せ」
株式会社ただいま はじめた人 和田昂憲さん
僕は現在、茨城県日立市でコーヒーロースターとカフェスタンドを経営しています。 コーヒーは、中学2年生のころから大好きで、よく学校をサボっては純喫茶に入り浸っていたことを懐かしく思います。コーヒーって、とても魅力的な飲み物です。世界の生産者の方々が、天塩にかけて育てたコーヒー豆を焙煎させていただき、消費側では、お客さまを豊かにする時間を演出してくれます。そんなコーヒーを扱う職業として、インターネットや書籍に掲載されている産地の情報だけを頼りにするのではなく、実際に栽培地に足を運ぶようにしています。生産者の方々と関係を築き、産地の状況や言葉にならない雰囲気を感じ取り、日本のお客さまにお届けしたいがためです。
今回は、国際協力NGOパルシックさんとご縁をいただき、10月末から約1週間、東ティモール民主共和国のコーヒー産地に滞在してきました。現地では、海外のカッパー(評価員)と一緒に東ティモールトップ10のコーヒーを決める審査員を拝命しました。一部とはいえ、自分の意見が、農家さんの生活の一部に寄与することを実感する、責任ある経験をさせていただきました。また、集落にも宿泊し、農家さんや加工業者のリアルな悩みや考えに触れることで、これからの自社のコーヒーに対する考え方をイメージするきっかけをいただくことができました。
少しコーヒーから話題が外れるのですが、この旅をきっかけに、「幸せとは」なんて、大きなテーマについても考える時間をいただけました。パルシックさんによると、東ティモールでは、およそ4万5000世帯の農家がコーヒー生産を主な収入源にしているといわれます。一家族あたりの構成人員は平均6名、すなわちおよそ27万人が直接コーヒー生産で食べていることになりますね。一家族当たりの所得は年間127ドルから200ドルで、そのうち90%がコーヒーからの所得といわれる。つまり、とくに高地での自給農業を補足する現金収入を得るほとんど唯一の道としてコーヒー生産があると考えられます。
東ティモール全体の一人当たりGDPは2,741ドル(Source:worldbank.org2021)ですので、農村部の人が都市部で生活することは、経済的に困難なことが容易に想像されます。例えば、教育。15歳までの義務教育が無料で提供されているとはいえ、学校生活にかかる備品の費用により通えない子どもが一定数いる。大学進学ともなると、国立大学で半期約30ドルの学費であり、これが私立になると半期で100ドル以上となる。
もちろん、経済力や教育進学が、その土地で暮らす人々の幸福に直接繋がるとは言えません。ですが、経済的な理由によって、不本意に将来の選択肢を狭められてしまうことは、やはり悪い格差なのだなと。(もう少し、産地の方と幸福感について対話をしたかったですね。)この国は、長い植民地支配をうけた結果、あらゆるものを輸入に頼らざるをえません。この国にとって、コーヒーは貴重な換金輸出農作物です。世界中で愛されるコーヒーが育つから、海外の人が訪れる大きな理由になる。世界のコーヒー市場向けに品質を高めつつ、収穫量をあげることができれば、その分所得は増えていく。収入があがることで、生きる選択肢が増えることは幸福に繋がると思います。しかしながら、はたしてそれが本当に農家さんの幸せに繋がるかと言われれば、はっきりとはわかりません。
弊社の取り組みは、まるで砂漠に水を一滴垂らすレベルかもしれませんが、コーヒーのサプライチェーンのなかで仕事をさせていただいている者として、貢献の仕方を考え続けていきたいと思います。
ツアー感想文
細野修平さん
知人からの強い勧め、というより要請に近い状態でしたが(笑)、東ティモールは未踏の地でもありましたので、楽しみに参加しました。有意義だったのは、東ティモールの各産地のコーヒーを、コンテストという形式で一度にテイスティングできたことです。これは、諸所のコーヒー生産国に渡航したときでもなかなか実現できないことで、同一国のコーヒーを同一条件で比較でき、効率良く、東ティモールのコーヒーの風味を大まかに把握することができました。コーヒーの生産現場では、主要栽培品種、農地、農法などの確認もできました(産地を全てまわったわけではないので、限定的ではありますが)。日程や、行程などに無理はなく、食事も美味しくいただきました。古くからコーヒーを生産している同国ですが、コーヒーの栽培と精製、精選、輸出に関してはこれから本格的にはじまる、といった印象で、良いところ、問題になりそうなところなど気づきが多かった印象です。再び彼の地を訪れたとき、どんな進化をしているのか楽しみな生産国です。
フェアトレードを考えた旅
コーヒーノキ 小林史依さん
6年前にパルシックから東ティモールの豆を購入し、父が趣味で焙煎をはじめた。父から習い今は私が焙煎しているが、正直コーヒーにはあまり興味がなかった。興味があるパンやお菓子作りの知識はすぐ覚えられるのに、コーヒーに関しては全く頭に入らない。
母の強い勧めで渋々ツアーに申し込んだ。コーヒーよりも農家の暮らしの方に興味があった。最初は乗り気ではなかったが、とても実りのある旅になった。次に行く機会があれば赤いコーヒーチェリーがなっているところや、映画『カンタ!ティモール』の広田監督から紹介されたエルダさんのタイス工房の見学もしてみたい。
マウンレテ集落でコーヒー農家の方に「コーヒー生産をするなかで挑戦してみたいこと」「質の良いコーヒーを作るために大切にしていること」を聞いた。彼らは「より良い品質のコーヒーを作りたいので、新しい機械、道や上水道の整備の支援をしてほしい」と何度も訴えていた。機械を購入するお金がないため、廃材、底が抜けた鍋、歯車を購入して機械を自作していること、自分たちで道の舗装もしていることを知った。
コーヒー生産に必要な最低限の設備は整っているだろうと思っていたので驚いた。新しいことに挑戦する余裕がない生活の貧しさを想像できていなかった。
地球温暖化による気候変動で貧しい人はより貧しくなる。マウンレテ集落のコーヒー農家のエドワルドさんは「気候変動によるコーヒー生産の影響は感じている。今年の6月にはコーヒーの実が熟し収穫できるようになっていたが、7月まで雨が続いたため収穫や加工ができなくて困った。雨季に雨が充分に降れば、次の乾季には1本の木から3回収穫ができる。しかし雨量が足りなければ次の乾季では1回しか収穫できない。サビ病は一度も経験していない。サビ病より雨によるコーヒーの生育状況が心配」と言った。
先日ペシャワール会会長の村上優さんのオンライン講演会『アフガンに命の水を』を聞いた。中村哲さんは「アフガニスタンでは金がなくても生きていけるが、雪がないと生きていけない」。アフガニスタンでは2000年から積雪量が減り、干ばつと洪水が断続的に続いている。村上さんは「地球温暖化は貧しい人から、もっとも早く、強く打撃を与える」。気候変動で発展途上国の人々、特に農家はより厳しい状況に追い込まれる。
東ティモールのコーヒー農家は「かわいそう」ではないが、貧しいのは事実だ。レボテロ集落では、電気は整備されておらず夜は真っ暗、水道もない。コーヒー生産に必要な水の状況は良くないということを知った。コーヒー生産者はギリギリ生活をしていることを知り、これが「フェア」トレードの現状なのかと驚いた。
今回の旅で「フェアトレード」の難しさを知った。前のように何の疑問も持たず「フェアトレードの豆を売っています!」と言えない自分を感じている。そもそも格差のある先進国と発展途上国でフェアトレードは可能なのか。
フェアトレードへの疑問はあるが、パルシックが東ティモールのコーヒー農家を支えていることは間違いないので、今後もコーヒー豆を買い続ける。自分の生活も豊かにしたいし、生産者の生活も豊かになってほしい。どうすれば格差は縮まるのか、自分にとっての「フェアトレード」とは何か、これからも考え続けていきたい。
最後に東ティモールの情報は調べても出てこないことが多い。パルシックには引き続き、コーヒー生産や農家の様子だけでなく、東ティモールの文化、政治なども発信してほしい。
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