食糧危機の中で乳製品加工がもたらす希望
- 活動レポート
パルシックは紛争が続いているシリアで食糧生産支援事業を実施しています。その一環で、脆弱な立場に置かれている女性たちを対象に乳製品加工の活動を計画していましたが、夏の猛暑の間は食品の衛生管理が難しいため、活動を延期していました。冬が近づき気温が下がったことで、私たちは活動の参加者にヨーグルトを作るための牛乳の配布を始めることができました。参加者は全員女性を世帯主とする世帯でシリアの厳しい経済状況の中にいます。しかし、彼女たちはこのような状況下でも私たちの期待を遥かに上回る行動力で、積極的に活動しています。
シリアの状況
シリアの状況を簡単に説明します。シリア国内の経済危機は回復する様子も見られず、ますます悪化する一方です。シリア人の平均給料は150,000シリアポンド(現在の為替レートでは約$11)であり、シリア人の購買力は引き続き下落しています。このような悲惨な状況は農村地帯ではもっと悪く、物資や輸入品が行き届いていないため、自分の地域の自給自足の生活に頼るほかありません。
さらに、この経済危機で肉や卵などのたんぱく質食品の値段が平均的な世帯が支払うことができないほどに高騰してしまいました。もともと肉は村の人びとにとっては贅沢なものでしたが、今では卵も手に届かないものとなっています。牛乳やヨーグルトは卵よりはお手頃に入手できるたんぱく質となっていますが、現在村の人びとは野菜と小麦を主な食糧として生活しています。
参加者の食品加工
このような状況にもかかわらず、参加者の方々は粘り強く、生活をより良くするために積極的に前進しています。私たちが行ったビジネスマネジメント研修と食品加工の活動のために原料として毎週パルシックから提供される牛乳のおかげで、私たちの期待を遥かに上回るスピードで彼女たちの生活は良くなっています。多くの参加者は活動の他に、自力で毎週100kgの牛乳を買い、クリーム、チーズ、バターなどさまざまな乳製品へと加工しています。ヨーグルトの生産はその村の住民にとっても主な食糧となっているので、彼女たちの主な製品となっています。
そのうえ、参加者は各自で様々な食品の作り方などを研究し、互いに情報共有をしています。ある参加者はアリシャ(クロテッドクリームに似た食品)を、チーズを作った際に余るホエイを使って作る方法を編み出しました。これは食糧生産の専門家をも驚かせました。ほかの参加者は牛乳、砂糖、デンプンを使ったプリンのようなおやつを村の子どもたちに提供しています。
彼女たちが一生懸命頑張ったことで最低限の生活用品だけでなく、羊や薬を買ったり、壊れていた冷蔵庫を修理したり、子どもを学校に通わせる費用を捻出することができるようになりました。多くはラマダンにたくさんの料理を準備できるのはとても久しぶりだ、と3月にあるラマダンをとても楽しみにしています。
苦難を生きる
この活動に参加している参加者は全員村に住んでいる女性で、さらに世帯主として家族を養わなくてはいけない人びとです。畑を耕して生活するにしろ、都会で出稼ぎをするにしろ、村の女性にとっては、危機を乗り越えて家族が生き延びるための選択肢はとても限られています。そのような状況の中で、参加者の成功を目の当たりにして、参加者以外の村の女性も自分たちの生活をより良くしようと食品の生産を始めたそうです。
一方で、参加者の中にも同じ結果を得られていない方もいます。この理由としては、新しく自分の活動を始めるための資金が貯められないことや、教育の機会がなかったために収入や支出の計算をすることができないことにあるようです。私たちのねらいは、研修やモニタリングを通して彼女らが自分の力で生活できるようにサポートすることです。
私たちの支援事業
私たちは、一時的な支援を行うだけではなく、シリアの人びとが持続的で豊かな成長を手にするためにこれからも支えていきたいと思っています。この事業では地域の人びとが食料を入手しやすくなるように、農業、食品加工、家畜の飼育などの活動を通して食糧生産を後押ししていきます。
冬到来間近で、活動に参加している農家は小麦を植え、家畜の飼育を行う女性たちは羊を受け取りました。食品加工を行う女性たちへの牛乳の配布も継続しています。農業支援の参加者は夏に収穫した野菜の売上のおかげで、何も収入のない冬も乗り越えることができます。また収穫した野菜は自分の家族はもとより、近所の人びとにおすそ分けして助け合っています。このように、私たちは小規模であったとしても地域経済を活性化させ、危機に負けないコミュニティ作りを目指しています。
緊張感が高く、先行きがわからない不安定な地域ですが、小さな地域でも社会が良い方向に進んでいるところを紹介することで、私たちの力は社会を変えることができる、ということをお伝えできたらと思います。ではまた次回、良い報告ができることを祈っています。
(レバノン事務所 アンソニー)
*この事業は、ジャパン・プラットフォームの助成および皆さまからのご寄付により実施しています。