特定非営利活動法人 パルシック(PARCIC)

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小規模起業支援をとおしてシリアの地方経済を再活性化

  • 活動レポート

こんにちは。パルシックレバノン事務所のアンソニーです。

シリアにも春がやってきて暖かくなる中、パルシックが実施している事業では農業支援として夏野菜の植え付けを始めるとともに、小規模起業支援の活動を始動しました。このアプローチを通してシリアの地方農村の経済を再活性化することを目指しています。

小規模起業支援とは?

シリアでは2011年以来続いている紛争の影響によって、特に地方の農村では生活に不可欠なモノやサービスが足りていない状況です。かつては当たり前のように近所にあった食料品や日用品を売る小さな店や理髪店、洋品店、修理店などは紛争の影響により、ほとんど失われてしまいました。村の人びとは必需品を手に入れるために都市部まで出向かなければなりません。今回新しく始める小規模起業支援では、日常生活で必要なモノやサービスが村でも提供できるよう、小さなビジネスを始めようとする人を応援します。

事業ではまず、村で小さなビジネスを始めたい人を募集して、経営に必要な知識を学ぶ研修を行いました。受講者には研修終了時にビジネスプランを作成してもらい、その中から実際に応援するプランが選ばれました。

進捗と改善

研修の参加者はほとんどが農村でビジネスとは無縁で暮らしてきた人びとです。研修が始まった時、参加者は自分のお店を立ち上げることが想像できず、どうやって村に適したお店にするかを考えることがとても困難のようでした。そこでスタッフが参加者と話し合いながら、彼らのアイディアを膨らませ、村でどんなモノやサービスが必要とされているかに目を向けられるようサポートしました。その過程を経て、参加者は商品の選択と市場価格の調査を行い、それぞれのビジネスプランを完成させました。

ビジネスプランが選ばれた人びとが支援を受けて、自分の店を立ち上げてからわずか2週間後には全員が100万シリアポンド(約74ドル)以上を売り上げ、それを元手に新しい商品を仕入れることができました。この活動を通して、彼らのビジネスを成長させるサポートを続け、必要なモノやサービスを地域に届けることを目指しています。

困難と課題

店やビジネスを始めることにリスクはつきものです。それはこの農村にとっても例外ではありません。そのため、参加者が将来自分たちでリスク管理できるよう、直面する可能性のあるリスクを理解し、対処法を講じてきました。例を挙げると、リスクの一つは、田舎であるため顧客が少ない点です。商品は仕入れたらすぐに売れると期待したり、一定数が必ず売れ続けると想定したりするべきでありません。だから生ものでないものや賞味期限が長いものを優先して仕入れることが重要です。

さらに、パルシックが目指しているのは地域経済の再活性化です。競争を生みたいのではありません。そのためどこでどのようなお店を開くのがよいかを慎重に検討しました。お店を開く前には、既存のビジネスと競合するのではなく、補完することができるように、販売する商品が近隣では手に入らないものであることを充分に確認しました。

支援を受けた人へのインタビュー

小規模起業支援を受けた一人にインタビューを行いました。

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インタビューの様子

「私は避難民です。別の村の出身ですが、紛争によってこの村に避難して来ました。

年に何度か日雇いの農作業をしたことがあります。労働はきつく、痛みや疲労、病気を伴い、搾取されていたと感じます。長時間働きましたが、賃金はわずかで生活は非常に苦しいものでした。

私たちのような田舎に住んでいる人たちにとっては、この事業の研修はとても大切だったと思います。それは、私たちにはビジネスを始めるための基本的な知識や経験が少ないからです。教わったことはすべてとても重要だったと思います。中でも、お店を開くための準備や利益の算出の仕方、商品の販売方法についての研修が特に役立ちました。

売上とともに利益も好調で、期待していた以上の成功をおさめられていると思います。3週間で350万 シリアポンドの売り上げを達成し、利益率も良い状態です。

現在、大きな問題は特にありません。商品や価格設定、販売方法、集客方法など技術面も含め、事業で継続的にきめ細かいサポートをしてもらっているお陰だと思います。

課題のひとつは、シリアポンドの価値が低いため、一部の資材の価格が高いことです。しかし、これは日々商品の値段をチェックし、売上金ですぐに仕入れることで防ぐことができます。これは研修を通して学んだことです。

そして私は今、売上金を使ってお店で売る商品と資金を増やすことに取り組んでいます。 その結果は顕著に現れていて、家族のために必要な食料を買えるようになったし、2日前には保存食を作るために豆をたくさん買うことすらできるようになりました。

そして、私にとって一番大きなことは、今までお金がなく、学用品を買うことが出来なかったために長男を学校に行かせることができていませんでしたが、これから行かせることができそうだということです。入学に必要な書類ももう準備できています。」

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インタビューした参加者の商品棚。シリアの農村部では、このようなちょっとした日用品でさえ手に入れるのが難しい

明日に向けて

この事業の目的は最も弱い立場にあるシリアの人びとに生計を立て直し再出発する手段を提供することです。農業支援と小規模起業支援を通して、私たちが活動しているシリアの農村で再び食糧が生産され、経済が活性化することを望んでいます。

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緑の小麦畑。トゲトゲの茂みが畑の境界を作っている

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シリア人にとってパンは主食であり、それを継続的に供給するためには、自分たちで毎年小麦を作る必要があります

最終的な私たちのゴールは、この事業の参加者とその周りの人びとが私たちの支援がなくても自立的な生活を維持できるようになることです。小麦の収穫が間近に迫っている今、農業事業の参加者たちには、収穫から得られる収入を持続可能な生活につなげるために計画を立てるよう求めています。小規模起業支援の参加者については、引き続き彼らのお店の経営を支援し、彼らが成長し続けるために必要なスキルを提供していきます。

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別の参加者の商品棚。必要な食料品が近隣で手に入り、村の人たちは都市部まで買い出しに行く必要がなくなります

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お店の棚の準備 

西アジア(中東)地域はいまだに不安定で先行きが不透明です。しかし、パルシックは自分たちにできることを行い、安定した土台をつくり、そこから彼らが再び生活を立て直すことができるような支援を継続していきます。

(レバノン事務所 アンソニー)
*この事業は、ジャパン・プラットフォームの助成および皆さまからのご寄付により実施しています。

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