「絶対に諦めない」命の危機と隣り合わせでも懸命に羊を飼育する羊農家たち
- 活動レポート
ガザ地区が筆舌に尽くしがたい人道危機に陥って一年が経ちますが、現在でもイスラエル軍による無差別な空爆や地上部隊による侵攻は続いています。パルシックが羊の畜産支援を続けるハン・ユニス県の中でも、海岸に近い地域は同軍が避難指定区域とするマワーシエリアとなっていますが、その地域の羊農家の自宅からわずか50メートルの場所にも爆弾はたびたび落ちています。幸い、羊農家も羊も無事でしたが、命の危機と隣り合わせの異常な日々に人びとは疲れ切っています。
羊小屋に爆弾が無差別に投下され、周辺に瓦礫やビニール資材が飛び散っている様子
爆弾が屋根を貫通した様子。幸い、羊農家も羊たちも無事でした
しかし、それでも羊農家は「絶対に諦めない」と羊の飼育と繁殖活動に励んでいます。パルシックのガザスタッフは、7月にケレム・アブサーレム検問所から羊の飼料が搬入されたとの情報を聞きつけて、すぐさま調達の手配を行いました。そして、現在でも羊を飼育している羊農家37世帯に、それぞれが飼育している頭数にあわせて2ヶ月分の飼料を配付することができました。戦争以降、飼料の確保が非常に困難な中、工夫を凝らし、雑草やハーブ、豆や乾いたパンなどを羊に与えて羊の空腹を満たしてきた羊農家は、今回の配付を大変喜んでいました。
戦争以前は、イネ科のパニカムを精力的に育てて羊にあげていたElianさん(戦争以前の記事 https://www.parcic.org/activity/staff/report/gaza_livestock_23210.html )水不足からパニカムを育てることも難しく、飼料を受け取り安堵していました
飼料を受け取る場所で久しぶりに再会ができて喜ぶ羊農家。お互いの家族の状況や羊が元気かどうかなど、話しが尽きることはありません
そして、羊に飼料を再び与えることができるようになり、羊の健康状況は明らかに改善されていました。栄養不足から骨が浮き出ていた羊がふっくらと肉付きも良くなり、雌羊はお腹のふくらみも感じられるようになっていました。しかし、戦争中は羊もストレスからホルモンバランスを崩しがちになり、空爆の爆音に恐怖心を抱いて流産する場合も多く、自然妊娠は決して容易ではありません。また、羊を数頭飼っていても、雄羊が既に病死したか、販売するなどして、雌羊しか残っていない世帯も多くありました。そのような羊農家は近隣で雄羊を飼っている羊農家に相談し、羊の飼料作物である大麦を手土産に雌羊を連れて雄羊を訪問します。数日間、雄羊と雌羊を同じ羊小屋で過ごさせて、自然妊娠に繋がるように見守ってきました。
そして9月上旬、ガザスタッフはハン・ユニス県で羊の妊娠状況を確認するための超音波器具を持っている獣医さんをなんとか見つけ、羊農家に呼び掛けて、羊の妊娠状況の検査をすることができました。獣医さんが一頭ずつ丁寧に超音波を腹部にあてて、エコーの画面を見ながら妊娠の有無を確認しました。
飼料と薬を与えることができるようになってから、羊は明らかに毛並みが良くなり、元気に育っていました
羊が動かないように押さえて慎重に妊娠状況を確認する様子。期待が膨らみます
戦争前には超音波サービスを行っている獣医さんはたくさんいましたが、何度も退避を繰り返して連絡がつかなかったり、獣医さんのクリニック空爆を受けて超音波器具が破壊されたりしたケースも多く、超音波サービスサービスの利用は容易ではありませんでした
今回は妊娠の可能性がある雌羊を49頭、また5頭の妊娠が確認されました。戦争中は爆音で流産する羊も多い中、羊も懸命に命を未来に繋げようと踏ん張っています。なんとか妊娠を続けられれば、2月にミルクを得ることができます。9月以降は気候も涼しくなり自然妊娠が発生しやすいため、引き続き羊農家は「大切に羊を育てていきたいです」と意気込んでいます。羊農家の家に産まれたサミラさんは「死ぬまで羊を育て続ける」と不屈の精神で羊の飼育を続けています。
羊農家は自らも命の危険と隣り合わせの日々を送りながらもなお、羊の飼育に奮闘し、食料が極端に不足しているガザ地区の人びとに羊のミルクや食肉を提供することを目指しています。これからもパルシックは、羊農家の皆さんと励まし合い、羊の繁殖活動や適切な飼育方法などを随時アドバイスしながらサポートしていきます。
共に励まし合い羊を育て続ける羊農家。「ガザから羊を死滅させたくない」という強い想いと不断の努力にパルシックのガザスタッフも敬服しています
(パレスチナ事務所)
*この事業は日本NGO連携無償資金協力の助成と皆さまからのご寄付により実施しています。