ガザ、停戦合意を受けて
- 活動レポート
2023年10月7日から467日続いたガザ地区の未曾有の人道危機。2025年1月15日、仲介国カタールの尽力もあり、同月19日から3段階の停戦合意の第一段階が開始されることが、イスラエル・ハマス間で合意されました。
ガザの人びとにとってこの知らせは、467日もの間、死の恐怖と隣り合わせの終わりの見えない地獄から抜け出すわずかな希望となっています。しかし、停戦合意の発表後もイスラエル軍による大規模な攻撃は続き、少なくとも70人以上が殺害されました。19日の合意の発効前は、イスラエル軍による無差別な攻撃がさらに激化する可能性があり、緊迫した状況が続いています。また、昨年11月27日のイスラエル・レバノン間でなされた停戦合意の後も、イスラエルはレバノンへの無差別な攻撃を続けていて、果たして第一段階の合意(6週間の停戦)が守られ、人質33名の解放とイスラエルの刑務所に収容されているパレスチナ人数百人の解放が叶うのか予断を許さず、ガザの人びとは祈り続けています。
2025年1月14日、ガザスタッフのサハルのいとこの家が攻撃にあいました。いとこは破壊された自宅から奇跡的に逃げ出すことができました。サハルは翌日、いとこを訪問し、何とか生き延びることができたことを確認して安堵していました
建物だけでなく道路も破壊され、瓦礫に囲まれた中で遊ぶ子どもや青年たち
ガザ保健省の報告によると、1月16日時点で総人口210万人のち、イスラエル軍の攻撃によって殺されたと確認された犠牲者のみでも46,645人以上に達し、そのうち17,000人が子どもでした。また、負傷者は11万人以上に上り、推定22,500人が生涯にわたる重度の四肢の怪我を負っています。医療従事者やメディア関係者も含む11,000人が行方不明となっています。一方でイスラエルの人質は98人と言われています。
ガザの全住民が1年以上も続く未曾有の人道危機で生命の危機に直面しており、心も崩壊しています。国連や国際NGOを中心に、ガザ地区に食料や衛生用品などを届けようと尽力していますが、イスラエル軍による物資の搬入の制限は続いており、ガザ域内の安全の確保も容易でないことから、戦争以前はガザに1日辺り500台搬入されていたトラックは、2025年1月1日から5日までで1日平均わずか51台のみとなっています。圧倒的な物資不足によるインフレの加速で、戦争以前は約1,400円だった小麦粉1袋25kg(約10日分)が、1月上旬には約25,200円となっています。ガザ地区は総人口の8割が失業状態であるため、収入源を失った人びとは支援団体が辛うじで提供している食料配付や炊き出しで命を繋いでいますが、子どもたちが食料を探してゴミ山をあさる姿も日常の風景になっています。これは戦争前のガザでは見られなかった光景です。
ガザの人びとは栄養が圧倒的に足りておらず、人口の半数以上が急性感染症を患い、皮膚病やA型肝炎、呼吸器障害などにも苦しみ続けています。また清潔な飲料水や生活用水の確保が難しく、捨てられたままの下水や排泄物、ゴミの堆積で害虫やねずみなどの大量発生も続いており、特にテントで雨風をしのぐ人びとの健康被害を加速させています。
ガザは今人間が耐え得る状況をはるかに超えた極限状態で、盗難被害も続いています。先日も、ガザスタッフのタグリードの庭に植えてあった樹齢100年のオリーブの木が、根こそぎ盗まれました。火を焚くための木材も不足しているガザでは、焚き火用にプラスチックの袋すら売られています。タグリードは行き場のない怒りと憤りを覚えています。
停戦合意を受けて、ガザスタッフのサハルは「人びとはお祝いムードである一方で、泥棒の心配や違法行為が起こるかもしれないので、全く予断を許しません。無秩序状態となったガザでは、停戦が始まった最初の1週間は人びとが敏感になるでしょう」と懸念します。
この467日間、ガザの人びとは絶望状態から地を這うように必死に命を繋いできました。ガザスタッフのシャディは「これまでも何度も繰り返し国際社会に訴えてきましたが、私たちはただの数ではありません。皆さんと同じ人間です。一人ひとりにそれぞれ苦しみのストーリーがあります。あまりにも多くの愛する人びとを失いました。どうか全ての国際社会のアクターに、このジェノサイドを止めるために全力で動き続けてほしいです。繰り返しますが、私たちはただの数ではありません」と訴えます。
パルシックは引き続き、安全を最大限に配慮したうえで、ガザスタッフを中心にできる限りの緊急支援を続けていきます。ガザスタッフは、停戦合意の知らせを喜ぶのも束の間、人びとの命を守るために可能な限り早く食料配付ができるよう準備を続けています。
2025年1月16日、ガザ地区南部で食料配付を行うために野菜の梱包を続ける様子
また、人びとの命だけでなく、人間としての尊厳も守ることができるよう、パルシックは引き続き食料や衛生用品の配付に加えて、畜産農家や乳製品作りを行う女性組合員への支援、子どもたちの学習スペースの建設を続けていきます。昨年12月には、皆さまからお寄せいただきましたご寄付で、820人の子どもたちに冬服を届けることができました。ご支援いただきました皆さまに心から感謝申し上げます。今後も、様々な緊急支援を続けていきます。
最後に、どうか戦闘が停止して、イスラエルの人質ならびにパレスチナ人も解放されて、これ以上の人的被害が出ないことをパレスチナ事務所一同、心から願っています。そして停戦したとしてもそれで終わりではなく、パレスチナの人びとの人間としての尊厳を守り、50年以上も続いてきたイスラエルによる不当な占領という根本的な問題の政治的解決に向けて、日本の皆さまとともに働きかけていく、できる限りのことを続けていきます。
引き続き、ご関心をお寄せいただき、ご寄付での支援にご協力いただけますと幸いです。
(パレスチナ事務所一同)