冬野菜の季節を迎えて ~収穫と食料バスケットの配付~
- 活動レポート
- レバノンでのシリア難民・レバノン人への農業支援
- シリア・レバノン・トルコ
- 緊急支援事業
こんにちは。レバノン事務所のアンソニーです。 今年のレバノンの冬は非常に乾燥しています。1月中の降雨量は例年に比べてとても少なく、私が住むベイルートなどのレバノン海岸部は比較的温暖な冬となっています。2月に入り、レバノン北部アッカール県では、パルシックが支援する農家は冬作物の収穫を進めています。
レバノンの近況
レバノンとその周辺国(シリア、パレスチナ)は現在、大きな変化を経験しています。2023年10月から始まったイスラエルとヒズボラの戦争は、2024年11月に停戦合意が実現されました。しかし、依然としてまだ不明確な停戦状態にあり、イスラエル軍は停戦後も合意に反してレバノン南部で駐留を続けています。同地域は停戦後もイスラエルの空爆にさらされており、この地域の多くの住民はまだ村に戻ることができていません。
隣国シリアでは暫定政府が成立したものの、国境付近での度重なる衝突が続いています。また、政権が変わってもシリアの経済状況は厳しい状況のままです。レバノにはいまだに多くのシリア難民が生活しており、シリア本国の経済状況が良くなった暁には帰国したいと言っています。
2025年1月にレバノンでは新政府が発足し、新しい大統領と首相が選出されました。レバノン国民は汚職の続いた政府機関や政治家の刷新、よりよい国の運営を期待しつつも、再び汚職が起きることを心配しています。
レバノン北部アッカール県の畑より
2024年4月から毎月、レバノン北部アッカール県にある農地を訪れ、現地の農家の皆さんとともに農作物の成長を見てきました。夏野菜の収穫を終え、今は冬野菜の季節に入りました。冬野菜は主にブロッコリーやカリフラワーなどの花野菜や、キャベツやレタスなどの葉物野菜を栽培しています。夏野菜は、残念ながら収穫量が予想していたよりも増えませんでしたが、冬の畑は美しい緑で満たされており、収穫により期待が持てそうです。

ぐんぐん育つレタス

緑でいっぱいの畑の眺め
しかし、今年の中央市場での冬野菜の卸売り価格は予想を下回っています。プロジェクトに参加した農家は何を作るかを各自で決めましたが、多くの農家は前年に良くできた作物を選びます。しかし、他の農家も同じ考えを持っているため、選定した作物の市場価格は翌年には下がってしまうのです。農家の皆さんはラマダン(イスラム教徒の断食月)開始である3月初旬までには市場価格が回復することを望んでおり、そのタイミングで出荷できるように畑で汗を流しています。
収穫した野菜のおすそわけ
このプロジェクトでは、農地を貸与している16世帯の農家から、収穫量の10%を周辺地域で困窮しているレバノン人とシリア難民に食料バスケットとして配付することになっています。この度、収穫した冬野菜から、キャベツ、ブロッコリー、カリフラワーを800世帯に届けることができました。一つの食料バスケットは約4〜5kgの野菜が入っており、5人家族が1〜2日で消費する量です。

配付のための袋詰めを手伝う農家さん

トラックに積み込みます
食料配付は現地の提携団体とともに実施し、難民キャンプの責任者や他組織のサポートを受け、円滑に行うことが出来ました。食料を届けた難民キャンプからは、さらに多くの食料支援、特に調理用油の支援を求められました。レバノンではカリフラワーなどは揚げて食べるのが一般的ですが、レバノンでは現在油の価格が非常に高騰しています。そのため、油が買えず、難民キャンプの子どもたちは生のカリフラワーをそのまま食べていました。今回の食料配付に対して、食料バスケットを受け取った人びとからは感謝の言葉を多くいただきましたが、困窮する現地の食糧事情にまだ課題は多く残っています。

食料バスケットを受け取るために並ぶ人びと

食料バスケットを受け取るシリア難民の子ども
天候不順、戦争・・直面した様々な課題
この農業プロジェクトは、2024年4月からスタートしましたが、気候変動の影響や戦争による地域情勢の悪化に至るまで、多くの課題を乗り越え、解決策を見つける必要がありました。
現在続いている乾燥した冬の天候は、来シーズンの夏の悪い兆候と言われています。冬季の降雨量が不足すると、地下水が十分に蓄えられず、水不足になるからです。また、2月になって、例年にないほどの豪雨も発生しており、既に収穫時期を迎えた冬作物に悪影響を及ぼす可能性があります。
農家が期待通りの収入を得られないという課題にも直面しました。夏野菜の生産では、予定していた畑の場所を変更する必要が生じ、それにより作付けが遅れ、当初見込んでいた収穫量に届きませんでした。そのため、農家は夏野菜の栽培を通じてあまり収益を上げることが出来ませんでした。
不安定な政治情勢も大きな懸念要素の一つです。停戦後も続くイスラエル軍による南部への攻撃および駐留、隣国シリアの暫定政府の今後の政策、新規に組閣したレバノン政府が今後どのような影響を与えるかは未知数です。
最後に
この農業プロジェクトは2025年3月末で終了の予定ですが、参加した農家がそのあとも農業生産を続けることができるよう支援できればと考えています。そして、来シーズン、今よりも状況がよくなっているこの国で、彼らが畑を耕していることを見るのを楽しみにしています。
(レバノン事務所 アンソニー)
*この事業は、ジャパン・プラットフォームの助成と皆さまからのご寄付で実施しています。