戦時下だからこそ教育を
- 活動レポート
2022年8月から、パルシックは、ミャンマーで教育支援の活動をしています。
2020年7月頃、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、ミャンマーの公立学校は休校となりました。そのまま2021年2月にはクーデターが起き、学校は休校したままとなりました。
2022年6月に、軍事政権は公立学校を再開する方針を示し、9割の学校が再開した地域もあります。一方で、ほとんどの学校が休校のままの地域もあります。
2023年末時点で、学齢期の子どもの1/3は学校に通えていないと推定されています(*)。
国軍により破壊された学校
クーデター後の教育事情
空爆がある地域では、学校は安全な場所ではありません。
2023年の1年間で、教育施設を対象にした攻撃が何度もありました。国連は教育への攻撃が多い国トップ3について、ウクライナとブルキナファソとミャンマーであると発表しました(*)。
パルシックが活動している地域では、公立学校はほぼ全て休校しています。空爆もあります。そのような中で、なんとか子どもたちの教育を継続させようと、活動している人たちがいます。公立学校が休校してしまって職を失った元教師や通っていた大学が軍事拠点となってしまい勉強を続けられなくなった元大学生が、ボランティアで子どもたちの先生を務めているのです。
学校が休校している中で、どのように授業をするのか。
ある地域では、竹や木でとりあえずの教室を作っています。
竹で作った教室
この地域には、もともと校舎もあり、今もその校舎は使われています。ただし、休校しているので、教師へのお給料は支払われません。この地域に逃れてきた人たちが多く、この校舎には入りきらなくなり、竹の教室を作ったのです。
前からあった校舎を利用
この学校に通う生徒は、男女比が1対1です。
だからといって、ジェンダー平等が達成されている、とは言い難いです。というのも、子ども兵や児童婚といった問題が今もあるからです。1対1というのは、あくまで、この学校で今、教育を受けられている人の比率です。この学校に来ていない子どもたちについては、残念ながら分かりません。避難先に学校が無く、学校に通えない子どもたちも多いはずです。
ある教室(写真下)の様子をご紹介します。ここでは、複数の学年の生徒たちが、同じ教室で別の教師から、授業を受けています。
授業の様子
ここで教えている内容は、いわゆる公立学校と同じです。英語、歴史、算数/数学もあります。ここは戦闘員育成学校ではないので、戦闘の仕方については教えていません。日本の多くの公立学校と同じ学校です。カリキュラムは、クーデター前のNLD政権時代のカリキュラムを使用しています。
授業の時間も限られ、教師の給料もなく、その場しのぎの校舎ではありますが、このようにして、この地域で暮らす人びとは教育を継続しようと努力していました。しかし、生徒全員分の教科書は無く、教師たちが、いつまでボランティアで教育活動を続けられるかは不透明でした。
そこでパルシックは、子どもたちへの教科書・文房具の配付と、教師への報酬の提供という支援活動を開始しました。机や椅子、ホワイトボードなどを置けるような学校には備品の支援も行いました。
文房具の配付
パルシックの支援活動と人びとの声
2022年8月から2023年3月末までで、15か所の学校に備品を配付しました。826人の子どもに教科書を、1,922人の子どもに文房具を配付しました(うち1,096人分の文房具は、皆さまからの寄付金約180万円により購入できました!)。
公立学校とは異なり、教師の給与は出ないため、生徒たちの親のうち払える人からの少額の寄付だけで、ほぼボランティアで授業をしており、教師たちの生活は困窮を極めています。そこで、135人の教師にお給料代わりの謝金を支給しました(50人に7回、60人に4回、1回あたり約7,000円を支給。25人には1回あたり約3,500円を3回支給済、2024年8月までにさらに5回支給予定)。
謝金をもらう教師
教師の皆さんに聞いてみたところ、謝金によって、個々の家庭の事情に合わせていろいろと購入できたようでした。教師の皆さんの声を紹介します。
- 他の支援は全くなく、生活が厳しいので謝金をもらえて本当に助かりました
- 病気の家族のために医薬品を購入できました
- 食料と衛生用品を購入できました
- 大家族なので、謝金のおかげで飢えずに済みました
- 高齢の家族のためにビタミン剤を購入できました
- 冠婚葬祭の行事に参加できるようになりました
- 生徒の誕生日に、飴をあげることができるようになりました
子どもの保護者にも話を聞いてみました。
- 新しい鞄とペンをもらって、子どもたちはとっても喜んでいました
- 子どもたちは友だちと一緒に勉強するのを楽しんでいます
- 子どもが将来の夢を語るようになりました
といったうれしい言葉をもらいました。
文房具をもらって喜ぶ生徒たち
一方で、「先生方は、教える研修を受けたほうが良い」「教育の質は、改善の余地がある」など、複数の保護者から教育の質に関して言及がありました。実は、ミャンマーでは、クーデター前から、詰め込み教育が問題視されていました。そのためJICAなどが生徒中心の教育を広めようとしていました。しかし、そのような新しい教育は、パルシックが活動するような農村部へは広まっていませんでした。
ボランティアの教師のほとんどは、詰め込み型教育を受けてきています。教師としての教育を受けた人はほとんどおらず、自身が受けたのと同じ詰め込み型の方法で教育を提供していました。
そこで、教育の質の改善に取り組もうとしたのですが、紛争下で研修を実施するのは難しいと判断し、まずは、教師用指導書を配ることにしました。
教師用指導書を受け取った教師
2023年2月から9月までの間に、110人の教師が教師用指導書を受け取りました。
受け取った教師からは、次のような言葉がありました。
- どうしたら効果的に教えられるのかについて深く理解できました
- この指導書を読んで、自身の教え方を改善しました
- 昔とは教科書も変わっていたので、指導書をもらえて助かりました
- クーデター後に通信が遮断されて、教育方法について検索することができなかったので、指導書はとても役に立っています
その後、教師研修の機会を探していたところ、教育大学(学部)出身者の人たちが運営する団体が、紛争下でも教師研修を提供していることを知り、彼らに教師研修をお願いしました。教師研修は、1回あたり4日間連続で行われました。家が遠い人は研修所の近くに宿泊して参加しました。
教師研修タイムスケジュール
1日目 | 2日目 | 3日目 | 4日目 | |
9:00-10:30 | 新カリキュラム概要 |
指導法① |
学習理論 |
評価方法 |
10:40-12:00 | 子どもの発達① | 生徒中心のアプローチと教師中心のアプローチの違い(デモンストレーション) | 教師の役割 | 参加者同士での指導演習① |
13:00-14:30 | 多様な知性と脳の発達 | 指導法② | 家族の種類 | 参加者同士での指導演習② |
14:40-16:00 | 子どもの発達② | 生徒中心のアプローチと教師中心のアプローチについてのグループディスカッション | 授業計画 | 振り返りと質疑応答 |
教師研修の様子
当初は60人の教師を対象に、20人ずつ3回に分けて実施予定でした。実際、第1回と第2回には、20人ずつ参加しました。しかし、第3回を実施しようとしたとき、近くの村から、自分たちも参加させてほしいというお願いがきました。そこで、村から参加を希望した教師20人も一緒に、総勢40人が、第3回の研修を受けました。
研修所には、教師の子どもやその面倒を見る人、お昼ごはんを作る人たちまでいたので、かなりの人数となりました。幸い、研修の満足度は非常に高く、教師たちからは参加できてよかったという感想のほか、次のような感想もありました。
- 生徒が恐れずに質問できるよう、フレンドリーな態度で接しようと思いました
- 生徒が簡単に理解できるような方法で教えようと思います
- 教師は生徒の家庭環境についても考慮する必要があることを知りました
- 教師は生理について知るべきで、生理痛の生徒がいたら、その生徒に合わせて休ませるなど対応したほうが良いということを学びました
教師研修の様子。プロジェクターが無いため、小さな画面に映し出される授業の動画を参加者全員でのぞき込む
研修を受けた教師たちに、現状と未来についてどう思っているか自由に語ってもらいました。人それぞれ、思っていることは様々でした。
- 今は移動ができないから、あらゆる物価が高騰しています。これが続けば近い将来、飢饉になってしまうでしょう
- 教育を受けていない子どもが増え、暴力が若者の間で蔓延するでしょう。若者の失業者も増え、生活がより厳しくなるでしょう
- 今、子どもたちの教育環境は良いとは言えません。これは将来のある次世代にとっての大きな損失です。だからこそ、私はボランティアの教師になったのです。次世代が質の高い教育を受け、未来を創り、私たちの国をより良い場所へと変えていってくれることを願っています
- クーデター後、明らかに、あらゆることが変わり、あらゆることが難しくなりました。今後は状況がもっと悪くなるかもしれません。就職口も、もっと減るでしょう。だかあら、私たちは一生懸命に働き、厳しい将来を生きる子どもたちのために、子どもたちに教育を提供すべきです
- 今は国軍に隠れながら勉強しているけれど、早く、隠れずに学べるようになりたいです
- 革命が終わったら、元の普通の生活に戻りたいです
- 将来は、もっと良い状況になっていてほしいです
グループワークの様子
残念ながら資金不足のため、2024年度は現時点では教師研修を予定していません。2023年に教師研修を受けた教師たちが、質の高い教育を提供することで、戦時下にある子どもたちが教育を続けられることを願っています。
(東京事務所)
*この事業は、ジャパン・プラットフォームの助成と皆さまからのご寄付で実施しています。