パレスチナ:皆さまのご寄付により、学校の排水整備工事が終了しました
- 活動レポート
昨年8月、パルシックは、占領下パレスチナのヨルダン川西岸地区北部の農村において、長年近隣のイスラエル入植地から校区内に流れ込む生活排水の問題に向き合ってきた公立学校に、衛生環境に配慮したトンネル型の下水路整備のための施工費用を募る寄付キャンペーンを行いました。
3か月間で72万円のご寄付を頂き、また、「連合・愛のカンパ」中央助成、アーユス「街の灯」によるご支援を頂き、無事に下水路を整備することができました。皆さまのご支援、心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。現在新型コロナウィルス感染症の影響で、学校の生徒たちに直接話を聞くことができていないのですが、今回の下水整備により衛生的な校舎で学ぶことができるようになった学生たちの声を、今後お伝えしていきたいと思っています。
汚水の流れ込む学校
パレスチナ・ヨルダン川西岸地区の農村の公立学校で、近隣のイスラエル入植地から校区内に生活排水が流れ込んでいるのを見たときは衝撃を受けました。冬季の増水に備え、下水路は塞がれずむき出しのまま、夏季には悪臭と害虫の発生源になり、扇風機もエアコンもない中、学生たちは教室の窓を閉め切らなければならない状況に置かれていました。
現地の複雑な政治状況もあり、根本的な解決が難しい中、2008年には、運動場・駐車場を横切る汚水用のトンネル型下水路の施工が行われましたが、校庭を通る下水路については未施工でむき出しのままでした。
パルシックの訪問をきっかけに、2020年1月、村役場は、学校、地域住民と協力して、この公立学校の下水路整備を汚水量が減る夏に実施する計画について話し合いを始めました。
校区内を流れる生活排水
新型コロナウィルス感染の流行
しかし、計画が動き出した1月下旬から2月にかけて、新型コロナウィルス感染が世界的に流行し始め、パレスチナ・イスラエルでも大々的に取り上げられるようになりました。
3月5日、パレスチナで最初の感染が確認され、じわじわと感染が広がり、3月末からヨルダン川西岸地区全体でロックダウンと住民の自宅待機が始まりました。厳しい外出規制が行われ、外食店、商店、教育機関が完全閉鎖になりました。基本的には食糧や医療品の購入以外の外出は禁止、違反した人は罰金対象になりました。交通機関も動いておらず、モスクや教会でのお祈りも禁止になりました。
結局ロックダウンは延長を繰り返し、2か月間つづくことになりました。
寄付キャンペーンのきっかけ
そもそも、下水路の整備は、イスラーム圏で年に一度やってくる断食月のラマダン中に奨励されている「喜捨」の時期と合わせて寄付を募り、住民と一緒に工事費を集める予定でした。
しかし、今年度のラマダンは、4月24日からの30日間、まさにロックダウン、外出禁止令の最中でした。そのため、村に訪問にも行けず、厳しい規制で経済が落ち込み、困窮者が増える中、寄付のタイミングを逃してしまったのです。
5月末、厳しい外出規制のおかげで、感染が少しずつ収まり始め、6月7日以降のロックダウン解除がアナウンスされたその日、現地のスタッフから連絡がありました。
「制限解除の発表後に本当にがっかりなんだけど、事業地の村で30人の陽性患者が見つかったから、村が閉鎖された」
今年度の工事ができるか雲行きが怪しくなってきた中、パルシックでも何かできないかと日本国内で寄付を募ることになりました。
政治的に厳しい状況下で、ネガティブなイメージも少なくないパレスチナにとって、こうした寄付の一つ一つが、とても大きな意味を持ちます。下水路の整備だけでなく、パレスチナの外からの連帯を感じてもらう機会となるからです。
事業地で工事開始
乾季と雨季があるパレスチナでは、10月ごろから雨季が始まり、最初の雨が降ったあと、オリーブの実の収穫が始まります。温暖化の影響で、年々雨季の時期が遅れていますが、汚水量が増える雨季に入る前に、無事に工事が開始されました。
下水路の工事の様子
学校を訪問したときはいつも、校長先生が工事をモニタリングしていました。
「学校は私の家で、生徒は私の子どものようなもの。工事の様子を見守ることは私の義務です。」
工事中に下水が流れ始めるのではないかとみんな心配していたそうですが、下水の流入もなく順調に工事ができました。一方、工事が始まって1か月ほど経ったころ、学生たちが外でバスケットボールをしていたとき、突然催涙ガスが入植者によって投げこまれたという事件もあったそうです。催涙ガスは目に入ると何時間も刺激や痛みで目を開けることができず、悪臭もします。こうした嫌がらせは定期的にあるそうです。
校長先生は、心の底から支援に感謝していると話していました。
「毎年夏の間、特に8月と9月は下水の臭いが強くて、この地域は湿度の高い地域だから、教室の中に漂ってくる臭いを防ぐために窓を閉めます。でも、閉めると、教室内は本当に蒸し暑くなり、それだけで不健康です。学校の訪問者も下水の臭いに悩まされていたので、ついにそうした悪臭が大幅になくなると思うと楽しみです」と話してくれました。
占領下のパレスチナでは、そもそも電力や水、基本的なインフラの整備がきちんとなされておらず、地域の排水や廃棄物の処理能力も限られています。
コロナ禍において、世界的にオンライン化が進んでいますが、電力供給の問題やもともとの社会的抑圧や差別がある占領下パレスチナでは、デジタル化の波についていけない状況があります。だからこそ学生たちの学習環境を整えることが重要になります。
下水路の整備もその一環であり、今回の支援をきっかけに、学生たちが希望をもって学生生活を送ることができるよう、今後もパルシックはフォローアップを続けていきたいと思います。
皆さまのご支援、本当にありがとうございました。
完成した下水路
(パレスチナ事務所 関口)
※この事業は皆さまからのご寄付、連合・愛のカンパ中央助成、アーユス「街の灯」の助成により実施しました。