ヨルダン川西岸地区 植樹事業地セルフィート県ヤスーフ村から
- 活動レポート
パレスチナのヨルダン川西岸地区では、毎年、地域の緑化、環境保護を目的に植樹事業を行っています。2023年度は、セルフィート県ヤスーフ村において耕作放棄地を整備、植樹して公園として再生するための準備を進めています。計画では2024年1月に植樹会を開催する予定でしたが、2023年10月7日から2024年1月末まで、村への道路がイスラエルによって閉鎖されたため、準備を中断せざるを得なくなりました。幸い2月以降、準備を再開しており、ラマダンが終わった4月以降に村の人たちと植樹会を開催する予定です。
植樹した苗をイノシシ被害から防ぐためのフェンスを設置しています
ヤスーフ村は人口2,000人ほどの村で、水源があるため、オリーブ栽培だけではなく豊富な水を使った野菜栽培なども行われています。一方で、1970年代後半からイスラエルの入植地、そして軍事基地の建設が始まりました。1993年のオスロ合意以降、村の面積の約1/4はエリアB(行政権はパレスチナ自治政府、治安権はイスラエルが管理)、残りの約3/4はエリアC(行政権、治安権ともにイスラエルが管理)とされました(オスロ合意によるエリアA、B、C区分について)。占領国が自国民を被占領地に移住させることは、国際法で違法とされています。しかし、入植活動は現在も続いており、エリアCでの違法入植地建設が増えています。さらに2000年の第二次インティファーダの頃には、イスラエル軍によって村内にザータラ検問所が設置されました。この検問所は、ヨルダン川西岸の北部と中部を結ぶ道路に設置されており、村人に限らずパレスチナ人が主要都市間を移動する妨げになっています。
ヤスーフ村には、行政、治安ともにパレスチナ自治政府が管理するエリアA地域はありません。村の中に入植地、検問所、さらにはイスラエル側につなぐバイパス道路が貫通しています。*地図内の前哨地(将来の入植地とするために、イスラエル政府からの正式な許可を得ないで入植者が土地を占領している場所)の中には、2024年現在は入植地となっているものもあります。
ヤスーフ村で植樹準備の指揮を務めているのは、オリーブ農家で副村長を務めるアブ・ユセフさんです。アブ・ユセフさんは、ヤスーフ村のオリーブ農家組合のリーダーでもあり、さらにセルフィート県のオリーブ農家組合でも委員として活躍しています。アブ・ユセフさんは20年ほど前までは、イスラエル側の建築現場で働いていました。しかし、ヤスーフ村でのイスラエルによる入植が酷くなっていく様子を見て、自分たちの土地を守らなければと思い、代々続く農業を継ぎました。親から継いだ土地に加えて自分でも土地を購入し、今では全部で5ヘクタールほどの土地を所有しています。
しかし、このうちの一部はイスラエルが頂上に軍事施設を設置した丘の斜面にあるため、農地として使えなくなっています。また、2014年には村内の入植者によって、ヤスーフ村のオリーブ畑は大規模な攻撃を受けました。村全体で100本以上のオリーブの木を失い、アブ・ユセフさんのオリーブ畑も被害を受けました。
農業専門家のアドバイスを受けて、アブ・ユセフさん(写真左)が土壌の流出を防ぐため石垣作りを指揮しています
村に出入りするために使える道路は、ザータラ検問所を通過する東の入り口と隣村のイスカカ村を通る西側の入り口の2か所だけですが、2023年10月7日以降、ザータラ検問所は閉鎖され、2024年2月現在、西側の入り口となる道路は突然閉鎖されることもありますが、開いている時間が増えています。しかし、入植者によって石や土砂が積まれて道路が閉鎖されることも度々起こっています。オリーブの木が入植者によって燃やされたり、暴行を受けて重症を負ったりした村人もいます。
また、10月7日以前は、多くの村人がイスラエル側での建設業などで収入を得ていましたが、10月7日以降イスラエル側に仕事に行けなくなりました。そこで、村ではモスクの改修事業などを行って失業者を雇用しています。また、植樹をする公園も当初の計画より拡張工事をすることにして、失業した村人を支えています。
イスラエル兵士に守られた入植者が村に来て道路を閉鎖している様子(2024年3月)
(パレスチナ事務所)
*この事業は、国土緑化推進機構緑の募金の助成および皆さまからのご寄付により実施しています。