生ごみからオリーブの実り
- 活動レポート
2019年から西岸地区ナブルス県北アシーラで実施している循環型社会形成事業では、ごみの分別・再利用を通したごみの減量、生ごみを利用した有機堆肥づくり、そしてその有機堆肥を使用した農産物の生産拡大などに取り組んでいます。生ごみを利用した有機堆肥は、2021年に入ってから本格的に生産を始め、この年、初めてオリーブ農家に生ごみ有機堆肥を使ってもらいました。
パレスチナのオリーブ栽培のサイクルは、11月頃から3月までの雨季の間に施肥、日当たりと風通しをよくするために枝を切りそろえる剪定などを行います。その後、4月から10月末頃は雨がほとんど降らない乾季になり、10月から11月の初めにかけて、乾季の終わりを告げる雨が2回降るとオリーブの実を収穫します。
2021年の雨季に初めて生ごみ有機堆肥を施肥したオリーブは、翌2022年、乾季の11月に収穫を迎え、多くのオリーブ農家から収穫量や品質の改善が見られたとの声を聞きました。
昨年11月、収穫したオリーブの実
オリーブ農家の声
アラ―さんは、これまで有機堆肥を使ったことはなく、今回が初めての有機堆肥での栽培でした。前年は豊作だったため、この年は裏作になると思っていましたが、有機堆肥のおかげか前年と同様に700kgほどのオリーブの実を収穫できそうだと言っていました。この量から採れるオリーブオイルはおよそ170kgです。オイルはすべて家族や親せきの家で使うそうです。アラ―さんは、「パレスチナではオリーブオイルを料理にたくさん使うので、170kgだけでは他の農家から買わないと足りないよ」と笑っていました。
アラ―さん(右)は、代々引き継いできた3.5ドノム(約0.35ヘクタール)の畑で15年ほどオリーブ栽培をしている中堅農家です
オリーブの収穫は家族総出で行います。子どもたちにとっては、お茶やコーヒー、ランチなどをみんなで楽しむピクニックのようなイベントでもあります。アラ―さんの息子が、現地スタッフにお茶をふるまってくれました
アフマドさんは施肥をする際に、自分のオリーブ畑の一部を、有機堆肥を使用した区画、家畜のフンを入れた区画、何も入れない区画に分けて、栽培比較をすることにしました。そして11月の収穫期、この3つの中で有機堆肥を使って栽培した区画が、実の大きさ、重さ、色のすべてにおいて、最も良く育ったことを確認しました。ただし、オリーブオイルの味については、オリーブの完熟度によって決まる(完熟が進むほど美味しくなります)ので、有機堆肥の効果はわからないそうです。「次のシーズンはもっと堆肥を買って、畑全体に使いたい」と言っていました。
アフマドさんは、全部で15ドノム(約1.5ヘクタール)のオリーブ畑を持っています。有機堆肥を使わなかった前年の収穫では1.7トンのオリーブオイルを作りましたが、2022年の収穫時のインタビューでは、2トンのオイルが作れるだろうと言っていました。自家消費だけではなく、販売もしています
オリーブ栽培への効果を実感した農家や噂を聞いた農家からの注文が増え、今期の施肥シーズンの生ごみ有機堆肥の売上は、昨年度の約1,900袋(約20kg/袋)から約3,000袋に増加しました。今期の収穫が今から楽しみです。
2023年7月初旬にアフマドさんのオリーブ畑を訪問しました。有機堆肥で栽培2期目のアフマドさんのオリーブの木の枝です。オリーブの実が枝の中心部分にたくさんなっていて、枝先も青々と伸びています。この伸びた枝先は、次の時期にもよい収穫が期待できる証です
出荷待ちの有機堆肥
イスラエル軍・違法入植者による暴力の事業への影響
昨年から西岸地区ではイスラエル軍やイスラエル違法入植者たち[※1]による暴力が急増しています。先日(2023年7月)のジェニン県にある難民キャンプへのイスラエル軍による攻撃や、それに先立つ2月に起きたナブルス県での違法入植者による大規模な暴力は日本でもニュースになっていると思います。しかし報道されないところでも、収穫期に違法入植者がオリーブ畑に放火をしたり、オリーブの木を根こそぎ引き抜いたり、オリーブの実を勝手に収穫し盗むといった、暴力が続いています。事業地である北アシーラのオリーブ農家は幸い被害にあっていませんが、昨年2022年9月から11月の収穫期には、分かっているだけでも違法入植者によるオリーブ畑への破壊行為が21件、オリーブの実の盗難が18件あったと報告されています。
参考:Olive harvest 2022: Another display of state-sanctioned violence by Israeli settlers and soldiers against Palestinian farmers
イスラエル政府は今年に入って、西岸地区における入植地のさらなる拡大を発表しています。西岸地区に住むパレスチナ人にとって、いつまでこの厳しい状況が続くのでしょうか。終わりの見えない暴力を止め、人びとが安らかで尊厳ある暮らしをするためには、あきらめず、国際社会の政治的解決へのたゆまぬ働きかけと、そして何より私たちが関心を持ち続けることが大切だと思います。パルシックはこれからもパレスチナの人びとに寄り添い、活動を続けていきます。
[※1]国際人道法のジュネーブ条約第4条において、占領国が占領する地域へ自国民を移住させること、もともとその地域に住んでいる人たちを追放することは、禁じられています。
(西岸事務所 高橋)
*この事業は地球環境基金の助成および皆さまからのご寄付により実施しています。