特定非営利活動法人 パルシック(PARCIC)

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シリア農業支援ご報告―小麦・野菜が育っています!

  • 活動レポート

こんにちは!前回の記事では、2022年度の農業支援事業の2022年夏の収穫状況をお伝えしましたが、その後2022年10月から新たにホムス県で農業・食品加工・養鶏事業を開始しました。今回はその新しい食糧生産支援事業の報告です。

シリアの食糧・農業の状況

シリアの食糧・農業を取り巻くそもそもの状況に関しては、過去の記事に記載した通りです(『シリア国内での食糧生産活動を開始しました』、『シリア国内での女性に対する食糧生産活動支援』)が、以下に簡単にアップデートしてみます。

  • 2011年以降のシリア危機の中、多くの男性が徴兵や国内外への避難などによって不在となり、農機具や農業インフラは破壊や盗難に遭うなどした。
  • 武力紛争や経済制裁による制裁経済状況の悪化と物価上昇に、ウクライナ危機やコロナ禍明けの世界的な物価上昇が重なり、畑は持っていても質の良い種や肥料、燃料を買う余裕がないなどの理由で、農業活動を縮小・停止してしまった農家が多く存在する。例えば主食の小麦の生産は2022年には危機前の1/4にまで減少した。
  • 結果、2022年の時点で人口の約7割を占める1,500万人の人びとが食糧・農業支援を必要とするような状況に(*1)

最近のシリア関連の話題

さらに2022年秋以降のシリア関連ニュースを見ていきましょう。紛争とそれに続く制裁が続いてシリア国内に住む7割の人びとが食糧支援を必要としているなか、レバノンやトルコといったシリア難民を多く受け入れている周辺国が、自国にいる難民をシリアに帰還させようとする圧力が高まっている状況が見えてきます。

レバノンではIMF支援の条件である必要な経済改革が行われず支援を得られないまま(*2)経済状況は悪化の一途をたどっており、シリア難民を受け入れるレバノンで人びとの不満がシリア難民に向かっている。レバノン政府はシリア難民のシリアへの自発的帰還を進めようとしたが、国際社会の批判を浴び中断(*3)

*1 UNHCR “2023 Humanitarian Needs Overview: Syrian Arab Republic” Dec 2022
*2 IMF warns Lebanon at ‘very dangerous moment’ (zawya.com)
*3 Safe Return and Voluntary Repatriation for Syrian Refugees from Lebanon: What Needs to Happen Next? – Lebanon | ReliefWeb

  • シリア政府と敵対してきたトルコも、ついにシリア政府との関係正常化に向けた協議を開始し、シリア難民についても議題に上がっていた(*4)。そうしたなかで2月6日、シリア難民・国内避難民も多数存在するトルコ南部・シリア北西部を被災地とするトルコ・シリア大地震が発生(*5)
  • レバノン政府は、2023年4月頃から不法滞在状態のシリア人の拘束・シリアへの強制送還を開始(*6)
  • 5月、シリア政府はシリア危機以降参加資格が停止されていたアラブ連盟への復帰を12年ぶりに果たし(*7) 、日本を含む西側諸国からの制裁が続きながらも(それによって経済状況は悪化し、人道支援を必要とする人口はシリア危機以降最大の1,460万人を記録しながらも(*8))、少なくともアラブ諸国の中ではシリアを代表する正当な政府として認められる。
  • 同月、決選投票までもつれ込んだ大統領選で何とか再選されたエルドアン大統領のトルコ政府(*9)も、国内のシリア難民に対する不満の高まりを受け、6月の国家安全保障会議でシリア人の帰還について協議していることを初めて公に認める(*10)

*4 https://english.almayadeen.net/news/politics/defense-ministers-from-russia-syria-turkey-to-meet-in-coming
*5 Türkiye-Syria Earthquake Response | United Nations
*6 Lebanon Steps Up Forceful Removals of Syrian Refugees – Lebanon | ReliefWeb
*7 Arab League brings Syria back into its fold after 12 years | Arab League News | Al Jazeera
*8 hno_2022_rev-1.15.pdf (humanitarianresponse.info) 
*9 Turkey’s Erdogan celebrates presidential election run-off win | Elections News | Al Jazeera
*10 In first for Turkey, National Security Council addresses Syrian refugee return – Al-Monitor: Independent, trusted coverage of the Middle East

パルシックの農業支援

このように、経済が疲弊し、既に食糧が不足している、そこに仮に国外のシリア人のシリアへの帰還が進めば(もちろん、いくら滞在先の国の国家権力や人びとに「国に帰れ」と言われ、または嫌な思いをさせられたとしても、戻った先の国で身の安全が確保されている等の確証がなければ帰還することは困難です)、さらに食糧のニーズが高まることが予想されます。このことから、シリアの人びとがふたたび自立的に食糧を生産できるようになるための支援が、まさに今必要とされているのです。

この事業では、小麦・野菜農家やオリーブ農家の支援と、乳製品などの食品加工や養鶏の支援をホムス県の村々で行っています。今回は、小麦・野菜農家支援について写真とともにご報告します。

放置されて固くなってしまった支援前の土地(2022年10月)

こちらもあまり手入れされていない様子の農地(2022年10月)

固まってしまった土地を耕します(2022年10月)

トラクターを動かすにもトラクターを借りる費用が掛かります。また動かすためには燃料も購入する必要があります(2022年10月)

質の良い小麦の種を配りました(2022年11月)

種をまきました(2022年11月)

種をまいて早速発芽した様子。農業専門家が、日々参加している農家を回り、適切なアドバイスをしていきます(2022年12月)

順調に発芽し、発芽率も伸びています(2022年12月)

農業専門家が適切なタイミングで必要な研修を行います。冬は雨季でとても寒くなります(2022年12月)

研修の配布プリント(2022年12月)

節水農業のためのチューブを配付しました。シリアでも気候変動の影響で極端な天気が増えていると言われ、水不足が問題になっています。また、水があってもそれを大量に畑に引き込むには動力を必要とするため、コストがかかります。節水のためのチューブがあれば散水する水の量と灌漑コストを最適化できます(2023年1月)

チューブを受け取った親子(2023年1月)

チューブを受け取った女性参加者(2023年1月)

適量の除草剤をタンクにセットする様子(2023年2月)

小麦畑に除草剤を散布。参加者の中には、昨シーズンに小麦を育てた際は、コストがかかるため農薬を一切使わなかったとか、使ったが質が悪かったため思ったような効果が得られなかったという人も。今回は質の高いものを適切な時期に適切な量を散布する支援を受けられているため、 収穫が楽しみだという声が聞かれました(2023年2月)

「このプロジェクトのおかげで農業を再開できました。たくさんの収穫があることを願っています」(2023年2月)。

農薬や除草剤に関する研修を行いました。1年を通して農家に寄り添い、きめ細やかな支援を行うのがパルシックの事業の特徴です。シリアでは、科学的な知見に基づく農業が行われているとは言い難く、事業終了後にも農家が自力で効率的な農業を行うことができるよう、効果的で効率的な方法を学べる研修を行っています(2023年2月)

専門家と一緒に全参加農家を定期的に訪問して作物の生育具合が順調か確認しています。作物に害虫、病気、虫も特に見受けられず、色も美しい緑色で、非常に良好な生育状況でした(2023年2月)

昨年この地域では、技術的な問題で用水に水が供給されるのが遅くなり、小麦の収穫量に影響したとのことでした。しかし今年は予定通り3月中に地域の用水路に水が供給されました。

用水からの水を小麦畑に引き入れる農家。小麦の葉が青々として美しいですね。 3月から4月にかけてキュウリ、トマト、ピーマン、豆、ナス、トウモロコシ等の種も配付し、夏野菜の栽培も開始しました。 農家の方々の希望に合わせて作物の種を配付しますが、多くの農家は、単作ではなく複数種の栽培を選択しました。多様な農作物を自給すること、また収穫物のおすそ分けや販売を通して、地域の人たちが食糧を入手しやすくなり、地域の食糧安全保障に繋がることが期待されます。

そして遂に!小麦が穂をつけ、まさに小麦色に色づき始めました(2023年5月)。

参加者の方々に話を伺うと、昨シーズンは質の悪い種や肥料を使うなどしていたため、1 km2あたり約250-500kgの収穫だったものの、支援を受けた今シーズンは、倍近い500-700kg の収穫を見込んでいると、嬉しそうにおっしゃっていました(2023年6月)

トマトも順調に育っています(2023年6月)

なんときゅうりは収穫できるものも出てきました(2023年6月)

このままうまくいけば、小麦の収穫は6月後半、本格的な野菜の収穫は7月以降を予定しています。その様子はまたの機会にお伝えしますので、皆さまお楽しみに!

(レバノン事務所 風間)

※この事業はジャパン・プラットフォームの助成と皆さまからのご寄付で実施しています。

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