シリア難民キャンプでの火災と被災者支援
- 活動レポート
今年の3月19日の夜中、アルサール市の難民キャンプで火災が発生し、19のテントが全焼し、18のテントが半壊する事態になりました。パルシックは今回の火災で被災したシリア難民41世帯に対して、食料バスケット、カーペット、衛生キット、寝具一式、子ども用衣服を配付しました。
今回の活動は、長年パルシックを支援くださっていた方のご遺族が相続からお寄せいただいたご寄付、180万円で実施しました。
食料バスケットを受け取るシリア難民の方々(左、中央)、支援活動を実施する提携団体URDAのスタッフ
3月19日のレバノン、アルサール市
「ブー、ブー、ブー、ブー」
3月19日の真夜中に突然携帯が鳴りました。提携団体URDAのムハンマドからメッセージでした。「アルサールで火災が起きている。パルシックとURDAで協力して支援活動ができないか?」続いて、キャンプ地に広がる火災の様子を写した動画が送られてきました。思わず目を疑うような光景が広がっていました。
パルシックは2020年からURDAと提携して、アルサールで教育事業を実施しており、今回の火災も活動地からそう遠くない場所で発生しました。SNSでは瞬く間に火災の動画が拡散しました。暗闇の中、炎が高々と燃え上がり、黒い煙があたり一帯を覆っていました。動画から、冬の乾燥した空気がやや強めに吹いていた風にあおられて、あっという間に炎がキャンプ地内に広がったことは容易に想像ができました。
キャンプ内はむき出しの配線、調理用のガスボンベ、簡素な薪ストーブや煙突、燃焼性の高いビニールテント、テントの骨組みの木材などがあり、火災がいつ発生してもおかしくないような状況にあります。さらにテントも密集しているため、一か所燃えればあっという間に拡大してしまいます。そのため、難民キャンプでは火災発生の頻度がとても高いのです。
火災により車軸だけになった原付バイク、火災の勢いを物語っています
ラマダン(断食月)に起きた火災
今回の火災は、イスラム教のラマダン中に発生しました。イスラム教徒は毎年、約1か月間断食をします。この期間、日の出ている時間帯は食事や水分補給が禁止され、日没から日の出までに1日分の食事や水分を摂る決まりがあります。早朝5時前に夜明け前の食事(スフール)を摂り、夜7時に断食後の食事(イフタール)を家族もしくは親戚と一緒に摂ります。
日中の間、飲食ができないのは苦痛の日々のように見えるかもしれませんが、イスラム教徒にとってこの期間は、自身の欲望を抑え、神様に対する信仰心を深めることが出来る期間でもあります。イスラム教徒の聖典クルアーンが啓示された月でもあり、とても重要な月なのです。
火災で身の回りのものがすべて燃えてしまって、断食を継続できるか不安という声が現地では多く聞かれました。そのため、ラマダンの期間に行われたURDAの炊き出しとパルシックの食料配付に、現地からは多くの感謝の声をいただきました。
今回配付した食料バスケット
寒さの残るアルサール、寝具セットと衣服の配付
被災した家庭の多くは突然燃え広がった炎により、テントの中から物を持ち出す時間すらなく、身分証明書などを失ってしまった人も多くいました。火災現場では炎より煙で亡くなってしまうことの方が圧倒的に多いと聞いています。今回の火災で死者が出なかったのは不幸中の幸いです。過去にもアルサール市の難民キャンプでは火災発生が報告されており、幼い女の子が命を落としてしまったケースもあります。
アルサール市は標高の高い場所に位置しており、3月の終わりでも、冬の寒さが残っていました。被災した難民の方々は親戚の家に身を寄せたり、他団体の支援する仮シェルターに一時的に避難したりしていました。そこで、寝具セットとして、寒さが残る夜に安心して眠れる布団と枕などを提供しました。
支援物資を受け取る被災者の女性
また、衣料品を購入できるバウチャー(クーポンのようなもの)を配付し、火災で衣服を失ってしまった子どもたち91人に対して、衣服の支援をしました。難民キャンプに居住する人の半数は18歳に満たない子どもです。通常、衣服の支援は、子どもによってサイズや必要な衣服の種類が異なったりするため、個々のニーズに合わせた支援が難しいのですが、今回バウチャーを利用することで各家庭が必要な衣服を自分で選ぶことができました。
衣服を選ぶ少女(左)、提携団体URDAスタッフのサラさん(右)
今回ご寄付のおかげで、被災した人たちに迅速に支援を届けることが出来ました。特にラマダンというイスラム教徒にとってとても大切なイベント中に火災が発生したこともあり、すぐに支援ができたことは大変よかったです。
通常、政府などからの助成金は申請から承認まで期間を要し、突発的な緊急事態に対応するのは難しい面があります。これに対してご寄付では、こうした現地の”今”必要とされているニーズに対して迅速に支援を届けることが出来ます。
温かいご支援に心より感謝申し上げます。ありがとうございました!
(レバノン事務所 中島雅樹)