「新鮮な野菜を食べられて嬉しい」シリア国内農業支援
- 活動レポート
パルシックは、今年からダマスカス郊外県とホムス県で農業生産支援を行っています。
どんな地域なの?
ダマスカス郊外県は、首都ダマスカスを囲むように、シリア南西部に位置しています。ダマスカスのベットタウンとして、首都から比較的近い地域には多くの人びとが生活していました。事業地は、シリア内戦下のヤルムーク・パレスチナ難民キャンプにおける政府軍と反体制派との戦闘を逃れるため、多くのパレスチナ難民が避難した地域で、二重難民となったパレスチナ人が親戚の家に避難したり、新たに家を借りたりして生活しています。ダマスカス郊外県では、主にパレスチナ難民の皆さんと一緒に農業生産を行っています。
ホムス県は、ダマスカス郊外県に隣接し農業が盛んな地域です。シリア第3の都市である県都ホムスは、古代ローマ時代から重要都市として栄え多くの遺跡が残る地域でした。しかし、シリア内戦下で政府軍と反体制派による戦闘の激戦地となり、2012年からの2年間は反体制派により包囲され、旧市街はほとんどがれきの山と化してしまいました。反体制派が撤退した後は、比較的治安は安定しており、他の地域に避難して帰ってきた人びと(帰還民)や、別の地域から避難してきた人(国内避難民)、元々その地域で暮らしていた人びとが一緒に生活しています。ホムス県では、帰還民、国内避難民と地域住民の皆さんと一緒に農業生産を行っています。
シリアの現在の状況
シリアでは、長期化する紛争や欧米諸国からの経済制裁により貧困者層が増加、新型コロナウィルスの感染者が国内で確認される以前に、既に約800万人(人口の約40%)が食糧不足に陥っていました。感染の拡大とそれに伴う外出制限で日雇いの仕事を失ったり、また物価が上昇したりしたことにより生活に困窮する人の数はさらに増え、2020年6月までに、支援が必要とされている人の数は1,100万人になりました。[※1]
農業支援の必要性
パルシックは、2019年よりシリア国内での食糧配布支援を行ってきました。シリア紛争の解決がなかなか見通せず、人びとの生活は支援頼みとなっています。そんな中、今後パルシックだけでなく、他団体や国連の支援もいつまで継続されるか分からず、支援が止まった場合、彼らの生活がどうなるのか彼らも私たちも不安を抱えていました。
そんな最悪の状況を避けるために、必要最低限の食糧を自分たち自身で確保できるよう、小規模の農業生産事業を今年から開始しました。生産量が家庭での消費量を超えれば、地域のマーケットで販売し、収入も得られます。そうやって今後も農業を継続することができれば、人びとの自立の一歩にもなります。
ダマスカス郊外県やホムス県は、もともと農業が盛んな土地でした。しかし紛争で農地が被害を受けたり、苗や肥料の価格が上昇したために農業をやめたり、農家がシリア国外に避難したりして、紛争前と比べて農業人口は下がっていました。そのような状況であったものの事業開始の告知をすると、農業経験者や、経験がなくても研修を受けて農業生産活動に参加して、生計を助けたいという人びとがたくさん申し込みに来ました。
事業を開始し、これまで一番大変だったのは、ほとんどの農地が長い間使われていなかったため、土壌が固くなっていたことです。トラクターを利用して土地をならす必要があり、農地準備に時間がかかりました。
さらに新型コロナウイルス感染拡大によるロックダウンが5月下旬まであり、ホムス県では、その後も1か月近く、安全のため活動を停止しました。ようやく事業を再開できたときには早急に準備を進めなくてはならず、毎朝5時から夕方まで一日中仕事をする日が続きました。大変な日々が続きましたが、土をならし、種を植え、食糧が生産できる楽しみが、参加者の毎日の原動力となっています。現在は、種植えを終了し収穫を待っています。
トラクターで土を掘り返している様子
ジャガイモの種植え
トウモロコシの種植え
キャベツが成長している様子
トウモロコシが成長している様子
ジャガイモが成長している様子
ダマスカス郊外県では、6月には活動を開始できたため、現在既に収穫も行われています。ダマスカス郊外県では、さらに養鶏も行っています。卵だけでなく雛が大きくなれば鶏も食糧となります。いろいろと大変な中、提携団体と密に連絡を取り、現場の状況を把握しながら、人びとの必要最低限の食糧が保障されるよう、活動を継続していきます。またこれから迎える冬場は特に生活状況が厳しくなるため、生産した野菜を乾燥させたり漬物にしたりして、保存食を作る計画や、温室を設置し冬場も農業生産を続けられる方法を考えています。
ナスが成長している様子
ズッキーニが成長している様子
配布した鶏
収穫したモロヘイヤを乾燥している様子
収穫したキュウリの漬物
収穫したオクラ
シリア国内では、3月22日に1人目の新型コロナウィルス感染者が確認されてから3月31日以降県外への移動禁止令が発令され、5月26日まで国民の行動が制限されていました。その後も感染者数は増加しており、一緒に活動を行っている2つの提携団体とも地域の様子やスタッフの安全を考慮しながら活動を行っています。
(レバノン事務所 大野木)
*この事業はジャパン・プラットフォームの助成と、みなさまからのご寄付で実施しています