「新鮮な野菜を食べられて嬉しい」シリア国内農業支援
- 活動レポート
パルシックでは、2020年からダマスカス郊外県とホムス県で農業生産支援を始めました。内戦の影響により農業を中断せざるを得なくなった農家さんで、特に女性が生計を支えている世帯やお年寄り世帯や家族の中に障がい者のいる世帯を中心に、就農する意欲のある人びとが参加しています。
活動地域の状況
ホムス県
シリア中部に位置する活動地域のホムス県は、もともと農業が盛んな地域です。シリアでは冬に雨が多く降るため、冬の間は比較的雨の影響をそれほど受けない、ジャガイモやダイコンや小麦を育てていました。西部では冬に何度か大雨が降り、地域によってはビニールハウスが飛ばされてしまったと報告も受けていますが、家族や親戚で分け合うのに十分な量を収穫することができました。
春に小麦の種を植えた農家さん達は、6月に収穫を迎えるにあたり、小麦の成長に重要な水が足りるか心配していました。シリア北東部では、例年と比べ降水量が少なかったことや、水源に使うトルコから流れてくる川の水量が少ないという、水不足問題が重なり、小麦の収穫が当初予定の半分以下になると予想されていました。そのため、ホムス県は中部に位置しますが、活動に参加する農家さんも自分たちの小麦の収量に影響が出るのではないかととても心配していました。しかし、パルシックの活動地域の近くには大きな湖があるため、現在のところ水不足の影響は受けていません。
シリア国内での小麦不足はとても深刻なため、当事業での小麦生産が少しでもシリア国内の食糧事業に役に立てばと願っています。
グリーンピース
トウモロコシ
レタス
小麦
ダマスカス郊外県
シリアの首都ダマスカスに隣接するダマスカス郊外県は、ダマスカスにあるヤルムーク・パレスチナ難民キャンプにもともと滞在していて、紛争によりキャンプを離れダマスカス周辺に避難したパレスチナ難民と共に農業活動を行いました。
パレスチナ人はシリア国内では難民ということもあり土地を持つことができないため、滞在する周辺の土地を借りて農業を行いました。また滞在地域も街の近くということもあり農業用の土地が少なく、小規模でしか生産できませんでしたが、養鶏の活動はパレスチナ人の住むアパートの屋上やベランダが利用できるとわかったため、土地を借りずに活動することができ、文化的にあまり外で仕事をしない女性の参加も可能となりました。シリア国内での女性の就職率は男性より断然低いため、農業活動では女性が参加できるような配慮を可能な限り行いました。
冬の寒さが厳しいシリアでは、冬の間は、家の暖房用燃料の必要性が高まりますが、欧米からの経済制裁および、シリアの経済の悪化の影響もあり、紛争開始の2011年から物価上昇が続いているため、多くの市民にとって冬の間に必要な燃料の購入がとても難しい状況でした。さらに、冬は電力供給の状況も悪く停電もしばしば起こっていました。今年の冬はあまり多くの雨は降りませんでしたが、それでも朝夜は気温が0度前後まで下がり、冬の生活は燃料と電気不足の中とても厳しかったです。
ダマスカス郊外県の農業活動では、ホムス県と違い、いくつかの野菜や香草を育て、あまり雨の影響もなかったのは幸いでした。特に冬の間は建設業などの日雇いの仕事が一時休みに入ることもあり、今年は新型コロナウィルスの感染拡大の影響もあり、食糧が入手しにくい状況であったため、農業活動により野菜を栽培・収穫でき、どの世帯もとても喜んでいました。農業活動に参加したほとんどの世帯は、滞在するコミュニティ内で多くの世帯が食糧に困っているため、収穫した野菜を近所に分けていました。
あわせて養鶏も小規模で実施しました。冬の間は、鶏は卵を産まなくなりますが、2月頃より卵を産み始め、3月には初めて卵から雛が孵りました。雛が育って大きくなれば、さらに卵の収穫量も増え、自分たちで食べる分以上に収穫できれば、近所に分けたり販売したりして、パルシックの事業終了後も養鶏を続けていくことができます。
ナスが成長している様子
ズッキーニが成長している様子
卵から孵った雛
鶏の飼育の様子
今後の農業活動の予定
食糧事情が依然として厳しいため、パルシックは今後も食糧生産活動を継続していきます。しかし、予算が限られているため、実際に食糧を必要としている世帯全体のごくわずかしか支援はできていません。支援が一人でも多くの人にいきわたるように、地域に根付く助け合いの文化を尊重し、支援世帯が他の困っている世帯に収穫物を分け合ったりしながら、地域内で支援を受けた世帯と受けなかった世帯の軋轢が生まれない配慮も行いながら、これからも食糧生産活動を頑張っていきたいと思います。
(レバノン事務所 大野木雄樹)
*この事業はジャパン・プラットフォームの助成と、みなさまからのご寄付で実施しています。