お花がつなぐ女性たちの連帯で、子どもの栄養改善を
- 活動レポート
2023年3月から、外務省NGO連携無償資金協力の助成を受け、新事業「女性の生計向上を通じた子どもの栄養改善」がスタートしました。
東ティモールは130万人の人口のうち41.8パーセントが1日1.50ドルの貧困ライン以下で生活をしているといわれていますが、お腹を空かせた子どもを大人が放っておかない社会でもあります。なので「食べられない」子どもは少ないものの、5歳未満で発育不全の子どもの割合は47パーセントと、栄養バランスの悪さが問題となっています。
パルシックは2019年から「ふりかけ普及と食生活改善による栄養改善事業」を3年半実施してきました。この事業では、東ティモール産の食材を使った「ふりかけ」を学校給食を通じて普及させると同時に、学校給食調理担当者向けの料理教室を開催し、地域の女性たちが地域でとれる食材を使って栄養バランスの良い献立を考えられるようになることを目標としました。
料理教室に参加する女性たち
料理教室に参加する女性たち
女性たちは栄養に関する知識を学ぶことにとても前向きで、料理教室の修了証を手にした時も、事業終了後に抜き打ち訪問したある学校で、学んだことを実践している様子を披露してくれた時も、とても誇らし気でした。一方で、女性たちにとっては学んだことを家庭で実践したいと思っても経済的理由で食材を揃えることができないという現実もあります。発育不全の子どもの割合が最も高い地域が実はコーヒー産地と重なっており、コーヒーからの現金収入が家庭での栄養改善につながらないのは、男性が自分の好きなことにお金を使ってしまい、女性が自由に使い道を決められる収入が限られていることの現れでもあります。
抜き打ちで訪問したアタウロ島の小学校。この日の献立は、市場で買った豆とジャガイモと人参のスープ
前事業からのこの学びを考える中で、わたしたちは切り花に目をつけました。東ティモールはキリスト教徒が人口の9割以上を占め、教会行事やお墓参り、結婚式や葬儀には花が欠かせません。首都ディリでも地方の農村でも、各家庭の庭先にブーゲンビリアや山丹花など彩り豊かな花を植え、お墓参りのときに使います。安くて日持ちのする中国産の造花も大人気でしたが、カトリック教会がミサで造花への祝福をしないと決めて以降、生の切り花への需要が一気の高まり、首都ディリには生花店がいくつも出来ました。しかし、国内で商業用に栽培された良質の切り花はなく、どの生花店も隣国インドネシアのジャワ島からはるばる空輸で仕入れた切り花を高値で販売しています。
マウベシの民家の庭先を彩る花々
ディリ市内の生花店で売られるジャワ島産の切り花
年間を通じて気温が20度前後のコーヒー産地で、女性たちが良質の切り花を栽培しディリでの需要に応え、定期的な収入を得ることができれば、毎日の献立に工夫をする経済的余裕が少しは生まれるのではないか。そう考え、この新しい事業をスタートさせました。
3月1日、在東ティモール日本大使館で契約書への署名式をおこないました。子どもの栄養改善を重点課題に掲げる大統領府、事業のカウンターパートとなる保健省、農水省から代表者が立ち会ってくださり、偶然にも全員が女性で、事業内容にとても共感してくださいました。会場にはコーヒー産地のマウベシから取り寄せた花束と、ディリの生花店で購入した花束を、どちらも10ドル分ずつ用意し、事業開始時点でのボリュームの違いや品質の違いをみなさんと確認しました。
地方の女性たちが丹精込めて栽培する切り花を、ディリで働く女性たちに喜んで使ってもらい、時間がかかるであろう子どもたちの栄養改善に女性たちが一緒に取り組める仕組みを作りたいと思います。
署名式の様子。手前に写っているのはマウベシ産の花束 (C)Embassy of Japan in Timor-Leste
(東ティモール事務所 伊藤淳子)
※この事業は外務省NGO連携無償資金の助成と皆さまからのご寄付により実施しています。