ロブスタコーヒーの挑戦、カカオへの期待
- 活動レポート
エルメラ県ポニララ村サココ集落でロブスタコーヒーを生産する青年組合コハル(KOHAR)と2019年に開始したアグロフォレストリー事業では、KOHARに建設した苗床で3年の間に7種類、2万本近くの植物の苗を育て、サココ集落に暮らす100世帯がこれらの苗を畑に植えました。この中にはカカオ苗も含まれ、2020年に植えたカカオの木にはすでに実がつき始めています。
カカオの実を嬉しそうに見せてくれるKOHAR事務局長のベントさん
カカオの実を写真に撮っていたら「こっちにも」と次々と教えてくれるベントさんの娘さんたち
KOHARの森で育つ植物のほとんどは国内市場向けの果樹ですが、唯一カカオは、生産者が良質なカカオ豆の発酵方法を身に着ければ輸出市場も視野に入れる可能性を秘めています。カカオの実の収穫が本格的に始まる前に、良質なカカオ豆の加工方法を習得してもらおうと、KOHAR組合長のアマロさんと組合員2名を、サココ集落から車で12時間もかかるティモール島南海岸のナタルボラ農業技術学校に送りました。この農業技術学校は、過去にドイツ国際協力公社(GIZ)の支援を受けて、カカオ栽培や収穫後の発酵、乾燥を実践した経験があり、東ティモールでもっとも良質なカカオの発酵工程を習得しているという定評のある場所です。
カカオ豆の発酵槽をしげしげと眺める、KOHAR苗床管理人のアルバロさん
サココ集落に戻って研修内容を組合員と共有する組合長のアマロさん(左端)
2019年にアグロフォレストリー事業を開始したときは、そのまま食べることのできないカカオの商品価値を漠然としかイメージできていなかったKOHARのみなさんですが、この研修を通して「カカオ豆を生産する」ということの全体像が具体的になったようです。苗床ではまた新しいカカオ苗が育っています。
良質なカカオ豆の生産、出荷を通じて収入の多角化が実現することを夢に見ながら、現在も組合員の主たる生計手段となっているのは廉価で味が悪いといわれているロブスタコーヒーです。味がよく、標高1000メートル以上の寒暖差の激しい地域で栽培されるアラビカコーヒーは、温暖化によりしだいに栽培可能面積を狭め、2050年までに現在の産地の5割ほどは栽培に適さなくなると言われています。コーヒーを安定的に市場に供給するため、ここ数年、コーヒー業界では良質のロブスタコーヒーに注目が集まっています。
この傾向を受けて、KOHARでも2023年のコーヒー収穫期にロブスタコーヒーの「嫌気性発酵(アナエロビック)」という加工方法に挑戦しました。実が小さく、果肉が薄くて硬いロブスタは、収穫後に果肉を取らずにそのまま乾燥させる「乾燥式」と呼ばれる製法が主流です。アナエロビック製法では、乾燥前にコーヒーの実を密閉した容器にいれて、カビが発生しないようなるべく酸素に触れない状態で数日間発酵させ、ロブスタの薄い果肉の糖度を存分に利用して甘みを豆に移し、コーヒーにフルーティな味わいを加えることができる、といわれています。
まずはKOHARから6名の有志を募り、このアナエロビック製法に試験的に取り組むことにしました。すでに東ティモールでロブスタのアナエロビック製法を実践しているポルトガルのカモンイス言語・国際協力機構 (Instituto Camões)に依頼し、有志への実地研修をおこないました。
研修はコーヒーの収穫方法から。赤く熟した実だけを手で摘みます
摘んだ実は水洗いして汚れをきれいに取り除き、さらに混ざっている未完熟の実を手で選り分けます
発酵槽に入れて密封。蓋に小さな穴をあけ、水の入ったペットボトルにつないでガスを抜きます
発酵させること12日間。パイナップルのような甘い香りがペットボトルの蓋に開けた針孔から漂い始めるころ、恐る恐る蓋を開けてみました。
蓋を開けてみると。。カビも生えずにきれいに発酵が進んでいました!
発酵の終わった実を、アフリカンベッドと呼ばれる網を張った台に重ならないように広げます。通気性のよい環境で2週間ほど天日干しして、完成です。
乾燥前のコーヒーの実
乾燥が進んだコーヒーの実
研修後、6名の有志はいつのまにか8名に増え、全部で1.5トンのアナエロビック・ロブスタコーヒーを生産しました。それぞれの成果を東ティモール・コーヒー協会のカッピングラボに持ち込み、味の確認をしました。
コーヒーの香りや風味を確認するカッピング作業の様子
初めての経験でしたが、従来の乾燥式に比べ、果実の甘みをしっかりと含んだ、おいしいコーヒーに仕上がっていました。このロブスタコーヒーはパルシックで生豆で販売しています。ご興味ある方、ぜひお試しいただいて感想をお寄せください!
試作したアナエロビック・ロブスタコーヒーのサンプルを手に記念撮影
(東ティモール事務所 伊藤 淳子)
※この事業は日本国際協力財団およびゆうちょ財団からの助成と皆さまからのご寄付で実施しています。